『未熟児』と呼ぶ養母。あなたに会わせると可哀想だから孫を会わせません。

西東友一

第1話

「おやすみ、赤ちゃん」


 私はいつものように膨れたお腹を撫でてあげる。時々蹴ったり、しゃっくりをしてリアクションをしてくれるのだけど、今日は大人しいようだ。


 ゆっくり眠れる・・・そう思っていた。


 バチンッ


 最初は何が起こったのかよくわからなかったけれど、お腹が弾けた気がして、目を覚ます。赤ちゃんのキックでもしゃっくりでもないその初めての経験だったけれど、下着に温もりを感じて嫌な予感がした。


(まだ、35週よ・・・、ホント? ウソ?)


 私は安心するためにトイレに急ぎたかった。けれど、もしかしたら違うかもしれないし、そうだったとしても身体に負担をかけてはいけないので、ゆっくりとお腹に負荷のかからないように起き上がった。


「んんんっ・・・」


 夫の新(あらた)はまだ寝ている。明日は平日で彼は仕事がある。もし違ったら、こんな深夜に起こしたら申し訳ないので、急ぎながらも私は音を立てないように気を遣った。


「やっぱり・・・」


 でも、トイレに行くと、尿でないもの血と混ざって出ていた。

 破水だ。


 私は夫を起こした。


「んっ、ああっ、了解」


 夫は急いでウインドブレーカーを羽織り、私が事前にまとめていた荷物を車に積み込む。私は高齢出産になるから色々なリスクを考えて、かなり早い段階から荷物を準備しておいたのだが、正解だった。


「行くよっ、香里」


「うん」


 新は私に気を遣いながら、車が揺れないようにしつつ安全運転で病院まで送り届けてくれた。普段はスマホゲームばかりしているし、甘えん坊さんの新。最初はSEXすれば簡単に子どもが来ると思っていた彼だったけれど、ちゃんと一緒に妊活を通じて勉強してくれたおかげで、とても紳士的で頼れる旦那さんに成長してくれた。


「元気な子、生むね。パパっ」


「・・・ああっ!! 香里、頑張れっ」


 コロナ対策のせいで立ち合いはしてもらえないと看護師さんから言われたのはショックだったし、もう少し私が頑張って破水しなかったら新も立ち合いできたんじゃないかと思うと、新たにも申し訳ない気持ちがあった。


 看護師さんから、陣痛が来たら呼んで欲しい旨とか、陣痛が来なかったら人工的に陣痛を起こして出産することを伝えられて、病室で一人になった。一人になった私は、一昨日に行った妊婦検診でお腹の張り具合のこと医師にちゃんと伝えていればこうならなかったのかなとか、たらればばかり浮かんできて目がさえてしまって、夫と少しSNSでやりとりをして、気を紛らし、赤ちゃんのため、出産の体力確保のため、なんとか目を閉じて眠りについた。


「頑張ろうね、赤ちゃん」


 私は、お腹を擦りながら眠りについた。

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