第51話 馬鹿な無計画
自分の幼少期を思い出している中、ヴィディの話は続く。
「信者を愛するベルは、その実直で真面目な子の願いを叶えてあげたく、神に頼み込んだのです」
「それで、どうなったの?」
「はい。……命の灯というものは人それぞれ。長くも短くもその人だけのもの。誰かの為だけに、その理を捻じ曲げて引き延ばすなどは不可能な事なのです。ですから……」
「ベル様はその子の願いを叶えられなかった……か」
「ええ。そして、その子からベルは――」
「身勝手な心無い罵声を浴びせられた」
「……別にその子には罪はないです。ただ、ベルは純粋な子ですから、それから自分の存在の意味などを見いだせなくなり、自分の殻の中に籠ってしまったみたいです」
旅に出る前に、爺さんが女神は純粋だから、簡単に言葉を発する事は気を付けろと忠告されたことを思い出した。
あの言葉は女神様にとってどれだけの悲しみを与えたのだろう。
ヴィディは罪が無いと言ったが、そんなはずがない。
その言葉で一人の女神の心を傷つけ、やる気を奪い、自分の中に閉じ込めた。
そんな元凶に罪が無いはずがない。
ますます俺は、目標を達した後の自分本位な幸せ生活を、そのまま受け入れる気が出来なくなった。
「俺は……俺はどうすればいい?」
「それはどういう意味ですか?」
ヴィディが、まるで何もかも見透かしている様な瞳をこちらに向けて問う。
「俺の戦う意味。……以前、君が言った事があるその場にいる為の理由……欲求が無くなっているんだ。……そう、ここにいる意味が分からなくなっているんだ」
「幸太さんって意外と生真面目なんですね」
いきなり褒められて(これは本当に褒めているのか?)俺は首を傾げる。
「必要ですか? 戦う意味や、その場にいる明確な意味が……必要ですか?」
「必要じゃないの? 君も言ったようにその場に留まる為には、欲や意義みたいなものが必要って言ったじゃないか」
「さっきも言ったように、人が全ての事を包み込んで理解するのは不可能な事なのです。それは自分自身の事に関しても。人は誰しも自分がそこにいる意義を知ってその場にいるわけではありません。でも、そこにいるという事は何か意義があるのではないですか? 何かあなたが求める本心がそこにはあるのではないですか? そして、あなたはここにいる。ということは、あなたのいる意味はあるのですよ」
「でも、明確なものが欲しいよ。今、俺はそれが欲しい」
「じゃあ、いつも通りにすればいいのですよ」
「いつも通り?」
「ええ、それはあなただけじゃない。人が皆する事。何かの為に、何かを行動する。人は全ての目標を捉えて生きているわけではありません。でも手探りながらも動いていく。不器用ながらもそれを手に入れる為。……幸太さん、人は生真面目に頭よく生きる事が正解ではないですよ。答えが無いから動けないって……それは怠慢です」
ヴィディの言葉を聞いて、俺は俺を笑った。
「ははっ、何か上手くいかないと諦めて投げ出そうとしてしまう。俺の悪い癖だな」
「では、あなたの知らない欲しいものを手にする為に、どうするか決めました?」
「ああ。とりあえず、いつも通りに馬鹿が無計画に動いてみるよ」
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