第3章 わからないこと
3-1 新しい春 ─side 知奈─
新しい春を迎えるときは、いつも緊張する。
初めての電車通学に、初めての定期券。新しい制服に身を包み、発車待ちの電車に乗る。通勤ラッシュと重なって、少し気が重い。
それでも電車通学が楽しみなのは、札幌へ向かう隣の駅でクラスメイトが乗ってくるからだ。
「おはよう、知奈ちゃん」
「おはよう……リツ君」
入学式の日は女の子の友達しか作れなかったけど。友達の一人に
それが友達に羨ましがられたのは、リツ君がイケメンだったから。今までも男の子の友達はいたし、リツ君とも仲良くなったけど、それでもイケメンと話すのはやっぱり緊張する。
リツ君はいつも私の隣に座り、昨日の出来事をいろいろ教えてくれる。休み時間に友達がとか、家に帰ったら弟がとか。クラブはサッカーかバレーで迷っているらしい。
「知奈ちゃんは?」
「私は帰宅部かなぁ。家のこともあるし」
私の両親が俥夫だとは既に伝えてある。母親はそろそろ体力が限界らしく、辞めるかもしれないと言ってるけど。それでも決してお金持ちじゃないから、他の仕事を探しているらしい。
電車は海岸から離れ、やがて住宅街に入る。札幌で地下鉄に乗り換えて、三駅先で降りる。住宅街に入るので、人の数はそれほど多くはない。
学校の敷地に入るか靴を履きかえる辺りで、他のクラスメイトに会うのでいつの間にかリツ君とは別行動になる。いつものことなので特に気にせずに、友達と話をしながら教室へ向かう。
担任のホームルームがあって、少ししてから一限目が始まる。お昼まで授業を受けて、友達と一緒にお弁当を食べる。ケータイの持ち込みは特に禁止されていないので、午前中の着信をチェックするのも日課。
(あれ……LINE……リツ君?)
普段は何の連絡もないのに、珍しく放課後の予定を聞いてきた。いつもは友達と帰ってるけど、今日は友達はクラブがあるから一人で帰る予定だ。
友達と話をしながらそう返信すると、すぐに既読になった。リツ君は教室の私の視界の隅にいて、やっぱり友達に囲まれて楽しそうだ。話声が少し聞こえるけど、私のことは何も聞こえない。
──それじゃ、一緒に帰ろう! 駅で待ってる!
突然すぎてびっくりしたけど、断る理由はなかったから『OK』のスタンプを送った。私とリツ君がLINEで約束したことを、クラスメイトは誰も気付いていない。
午後からの授業もいつも通り受けて、友達とは教室で別れた。
いつもならリツ君とは朝まで会わないのに、突然何だろう。
もしかして──、とは、何となく思ったけど。
駅に向かって歩いていると、地下へ下りる階段の近くでリツ君は待っていた。
「ごめん急に」
「ううん、良いよ。……何かあるの?」
「いや──、知奈ちゃんのこと、もっと知りたいなぁ、って思って」
階段を下りながら言ったリツ君の言葉が、一瞬わからなかった。それってどういう意味、って考えて答えを見つけたけど、リツ君は歩き続けて振り返ってくれない。
改札を通って、ホームにまた降りる。それでもリツ君は歩き続けて、全然止まってくれない。
「ちょっとリツ君、待ってよ!」
私は思い切って──リツ君の腕を掴んだ。リツ君は少しびっくりして、ようやく止まってくれた。
「待ってるって言ったの、リツ君なのに」
「あ──ごめん……。考え事してた」
「私のこと?」
「うん」
「……え?」
冗談で聞いたのに、当たってしまったみたいで。リツ君は少し困ってから、告白してくれた。高校生になったらカッコいい彼氏を作る、とは言ってたけど、こんなに早く出来てびっくりする。
さっきまでは何とも思わなかったのに、付き合いだした途端にこんなにドキドキする? っていうくらい、今まで以上に緊張してしまう。
私もリツ君も初めての恋人だったから、手を繋ぐだけで精いっぱいな四月の帰り道。
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