第15話 泣き虫な初弟子

□霧宮朧

「つええな」


さくらが異様に不安がってるから、どんなステータスかと思ったら。これは、強い。基本的に、Lv.5相当のステータスは平均で100。SPによって、割り振りを個々人でやるから突出するものがあったりもするが、それでもせいぜい150を超えるかどうか、てとこだ。なのに、さくらは250が2つに、500が2つ。DEXは平均値の半分だが、これら4つが破格すぎる。それに、職業も【戦乙女】という特殊なものだ。スキルの効果も凄まじい。


「強いて言うなら、加護がよく分からないが……。だが、はっきり言ってこのレベルで、これらの値はあまりにも強すぎる」

「あ、あの……師匠?」

「あ、あぁ、すまんな。正直、驚いたよ。全てが破格だ」

「あはは……。そ、そうですよね。わたしも、最初はそう思ってました……」

「最初は……?どういうことだ?」

「そうですね…。わたしも、特殊職業になれて、ステータスもDEXやINDは平均より低いですけど、それ以外はものすごくて……。スキルだって、こんなに強いのがあるんだ!わたし、これからドンドン強くなっていつかは……て思ってたんです。でも!!!違いました……。」

「違う、か。」

「はい。師匠は先程見せたスキルを思い出してください」

「ダメージ請負。請負分に応じた攻撃へのダメージ加算。戦闘時における、VITとMND値増加に、敵の自身への与ダメージ減衰。あとは、確か耐性の獲得。全部覚えてるし、だからこそ、俺は強力だと思ったんだが……?」

「まず、わたしたちが通っていた中等学部では入れるダンジョンの階級は最大でC、基本的にはDやEでした。そして、最初はわたしのスキルでもそこそこダメージは入ってきて。わたしも攻撃に参加して、スライムや一角兎ホーンラビットを倒せてたんです。ただ、調子が良かったのもLv.3くらいまででした」

「何故なんだ?」

「ダンジョン内の敵のダメージが、わたしのスキルのダメージカット率を上回らなくなったんです。そして、DEXの伸び幅も他の人よりも遥かに少なく、どんなに攻撃力があってもより俊敏になってきた敵に当たらなくなってきました。結果的に、わたしはSTRが高くても攻撃が当たらない、加算もない。ただダメージを請け負うだけの、都合のいい肉壁になり始めてたんです」

「すまん。水差すようで悪いんだが、それはダメなことなのか?聞いている分には、超強力なタンクな気がするんだが。」

「あははっ、そうだったらどれだけ良かったか。この話には続きがあるんです。勿論、最初は師匠と同じように考えて、みんな励ましてくれたり、一緒に潜ろう、て言ってくれました。でも、攻撃が当たらずレベルも上がらないわたしは、どんどんみんなに置いてかれて。中2の秋頃くらいから、ですかね。既にその時には、学園で1番レベルが低い人達との間にも3倍くらいの差ができて……。もう、あの人たちの攻略速度に追いつけず……。」

「で、最後はパーティーから追放されるようになった、と」

「…………はい」


なるほどな。レベルに合わない強力すぎるスキルと攻撃力に各耐久値、そして不釣り合いな程に低い器用さ《DEX》の結果か。そりゃそうだ、みんなレベルが上がるにつれて、それ相応にステータスも上昇する。そして、ステータスが上昇すれば敵の攻撃はよ蹴られるようになるし、攻撃を受けてもそう簡単にくたばることは無くなる。素早さ《AGI》はレベル平均値程度だから、荷物持ちとしても遅くて使えない。


「………………」


だが、非常に面白い。偏ったステータス、強力な各スキル、DEXは低いが低いやつの戦い方を俺は体験して《知って》いる。


「やっぱり、こんな宝の持ち腐れで攻撃も全然当たんない荷物持ち以下になんて教えてくれませんよね……。束の間とは言え、夢のような時間でした。ありがとう、ございました……」


「ん?」


「へ?」

「いやいやいや、なんでそんな弟子はやっぱ無理だ、みたいなこと言われたみたいになってんだ?」

「え……、だって。の師匠なんて、やっぱ無理なんですよね?だって、わたしが荷物持ちもタンクも何も出来ない役たたずだ、て知ったんですよね……?」

「ん?あぁ、そうだろうな。確かにそうだろう。」

「だから!…だから、黙ったんでしょ?わたしにやっぱ弟子にはさせられない、て言おうとしてたんですよね……?」


あぁ、なるほど。そりゃあ、そうか。あの時の覚悟は惹かれるものがあった。だが、実際は3と言われ続けてきた、ただの同い年の女の子だ。実際は、とても怖かっただろう。不安だっただろう。それでも、譲れない何かのためにここに残り続けて、耐え続けてきたんじゃないだろうか?そんな子だ、きっと、今もステータスを見せて役たたずだと知られた瞬間、全てが終わるとでも思ったのだろう。


「あのな、さくら?」

「はい…………」

「舐めないでもらおうか!」(ズビシッ)

「いたっ。え、え?ど、な、なんでいきなりデコピンされんですか?」

「いいか?さくら。俺は世界一位だ!」

「はい。知ってます」

「…………」(ズビシッ)

「いひゃいっ。ま、またっ。何するんですか!?」

「普通にイラッときた。」

「イラッときたってなんですか!?師匠が世界一位だなんて、あの試合見たんですから知ってますよ!」

「いや、何言ってんだこの人、みたいな表情が、な。で、俺はだ。ナンバーワンだ。俺は、あのゲームのことなら人より多少多くのことを知っているし、頂きに至るまでの過程で多くのヤツらを見てきた。それに、さくら。さくらはさっき言ったことをもう忘れたのか?」

「だから!師匠が言っていたじゃないですか!戦い方を知らない限り、わたしは役たたずだって!意味ないんだって!だから、だから、わたしは!やっぱり、これからも役たたずなんだ…………」

「はぁ、覚えているのに何故そんなに悲観しているんだ」

「え、だって……。…。…………。…………え?もしかして、知ってるんですか!?」

「あぁ、知っている」

「でも、でも!わたし、DEXが他の人より低いし、今までSP《ステータスポイント》をDEXに割り振ってやっとあれなんですよ!?これからも低いだろうし、低かったら攻撃当たらないし!」

「そうだ。でも、大丈夫だ。どんなに低くても大丈夫なんだ。」

「…………っ。で、でも……っ」

「もう、安心していい。さくらはこれからもっと強くなる。急速に、圧倒的に、遅れた分を取り返すように、みんなを追い抜くように。だから、もう、恐れなくて大丈夫なんだよ。おさくらは、世界一位の弟子なんだよ」

「………………っ。う、うぅっ。うわぁぁ、あぁぁあぁあ…………」

「たく、泣いてばっかりだな」

「だ、だっでぇ、だっでぇえぇ……。ヴぇえぇ……。う、うれじぐでぇ、よ、よが、よがっだ、で。いままで、だくざんがんばっで。でも、もうむりなんだ、でおもってて……」

「そうだな。お前は頑張ったよさくら。充分過ぎるほどに足掻いてきた。もうそろそろ、報われてもいい頃だ」

「うわぁあぁぁあん。」


全く、会った時も泣いて、今も泣いて、泣き虫な弟子だな。


「でも、そうだな。さくらを育てることはとても楽しそうだから。だから、安心しな。さくら」


世話の焼ける初弟子は、これから報われるために頑張るのだ。そして、俺はその手助けをする。だけど、まずは……


「泣き止ませないとな。泣き虫な初弟子を」

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