第7話 表彰台
「影野さん。優勝おめでとう。」
表彰台に行く途中で見つけた影野さんに、思い切って声を掛けた。初対面の人にこんな風に声をかけたのは初めてだった。
「ありがとう。朝霞さんも、準優勝おめでとう。」
良かった。ちゃんと会話ができた。当たり前のことだけど、ちょっと喜んでしまった。緩みそうになる頬を引き締めて、
「ありがとう。」
と答えた。影野さんは会話が終わった後も、ずっと私を見ている。何か嫌なことを言っただろうか。見つめ返すと、心底不快だという表情で顔を逸らされた。
「私の優勝タイムよりあなたの自己ベストの方が速いでしょ。でも私が勝った。」
「どういうこと? 何が言いたいの。」
「全然、悔しがってるように見えないから。」
「え……。」
今日、全力を出し切った。あれ以上は出来ないって自信を持って言い切れる。悔しくて仕方なかった。でも影野さんの努力が見える走りだったから、純粋に尊敬して優勝を祝っただけ。もっと悔しさを顔に出して、全身で表現すれば良かった? 同い年のすごい子を目標にこれからも練習していこう、と前を向いただけなのに。影野さんとの食い違いにずっとモヤモヤしたままだった。
後で表彰台に立った時の写真を見せてもらったら、全く笑っていなかった。私も、影野さんも。
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