第5話 全中までに

 全中に行く3年生は部長の矢住やずみ先輩だけだった。今まで気にもとめなかった弱小校が、急に強くなって勝てなかったらしい。次の大会がない部長以外の3年生は引退してしまう。ということで、一時的な副部長を私たち2年生の中から決めることになった。

 一時的だと言われているけど、ここでコーチから指名されれば実質、次期部長ということだ。すごく嫌だ、というわけではないが面倒なことはなるべく避けたい。まあ、そんなに心配しなくてもコーチが指名するのは多分……。


「部活始めるぞ!!! 集合!」

いつも通り矢住先輩の大声が響き渡る。でも、その周りに3年生はいない。特に仲が良い先輩がいたわけではないけど、どこか寂しさを感じる。さっきからソワソワしている雅は、寂しさよりも誰が副部長に選ばれるかが気になるらしい。休憩時間中にずっと『蓮が選ばれると思うよ!』と言っていたけど、私はそう思わない。矢住先輩を始め歴代の部長は、実力はもちろんのことだけど、協調性も見て選ばれていた。周りに気を配り、部員たちと分け隔てなく話すことが出来る人。私の性格上みんなと仲良く談笑……なんてきっと出来ない。表情がないと怖がられるのがオチだ。私より適任なのは、雅でしょ。と口には出さないが思っていた。




 結果、私の予想は大当たりで、副部長に選ばれたのは雅だった。本人は驚いていたけど、私たち2年生はみんなやっぱりか、という顔だった。


 「え〜、蓮じゃないのか〜。」

菊島きくしま雅! しっかり矢住から学べよ!!」

「はーい。」

余計なこと言わないで!まるで私がやりたがってるみたいじゃない!

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