底辺部活の異世界冒険記 このメンツで勇者パーティーは無理でしょう。
@yoanisosi
第1話 天峰ナギサ
部室のドアを開けると、他の部員は全員揃っていた。
といっても、ただっ広い部屋にいるのは女子が三人だけ。
総勢四人の、吹けば飛ぶような部活である。
ドア上の表札は一応「文芸部」になっているが、入部してからの一年三か月、部員の誰一人として、ここで真面目な本を読んだことがない。
文芸部なのに……である。
それだけで、まあ想像はつくだろう。
ここは……生産性ゼロのド底辺部活なのだ。
どんな学校にもきっと一つや二つあるに違いない。
はみ出し者や日陰者みたいな連中が集まって、内輪だけでギャアギャア盛り上がってるような、そんな部活。
サッカー部やバスケ部には間違ってもなじめないような、そんな人員だけで構成された、学校社会の落伍者集団。
……語ってるだけで、ちょっとした悲しみに襲われる。
けど、ネガティブになってても仕方がないと思う。
俺みたいなのが普通の部活に入ったところで、一年早く生まれただけの先輩に偉そうにされてヤル気をなくすか、素人顧問が考えたアホみたいな練習に嫌気がさして光の速さで退部届を出すか、そのどっちかの未来しかない。
それに……。
正真正銘の底辺部活だろうと、入ったからには、意地を張って頑張ってみるのもそんなに悪いことじゃないと思ってる。
どうせ王道的な部活に居場所はないわけだし……。
そんなわけで……。
俺はここの部長を務めていた。
カバンを置いて、まずパソコンモニター前の天峰ナギサに声をかける。取り憑かれたかのようにコントローラーをカチャカチャしているが、プレイしてるのは女子中学生に似つかわしくないバトルロワイアルゲーム。マシンガンやロケットランチャーで殺しあう血の気の多いやつだ。
「ホント飽きないな。何時間やってんだ?」
俺は天峰の後ろに立ってモニターをのぞき込んだ。
ここ数か月ひたすらこのゲームだけをやりこんでいて、今日にいたっては午後の授業をサボってプレイしているらしい。
擁護しようのないダメ人間だが、れっきとしたうちの部員である。
「そろそろ夏休みの予定決めないとさ。来週もう終業式なんだぜ。
いつ集まるかも決まってないし……せめて今日中に……」
「だ、黙れ! 気が散る! こっちは今殺し合いしてるんだぞ!」
一瞬こっちに向けたその目は、さてどう表現すればいいか……。
一言で言っちゃえば完全に「イっていた」。
リアルに人を撃ち殺しそうな眼付きだ。
どんだけゲーム世界にのめり込んでんだよ、こいつ。
「あと三人、あと三人ぶち殺せば……。
私の優勝なんだからぁ……!
よっしゃ! ***ぶちまけやがれ、クソ**どもぉ!」
女子中学生が発してはいけない叫び声とともに、マシンガンで敵を一掃する天峰(のキャラクター)。プレイ時間が圧倒的なだけあって、その腕前はすでに常人のレ
ベルを超えている。
「ハッハー! 見たか、低ランクのゴキブリども!
小坊とでも遊んでろや!」
死体となった他プレイヤーに、なおも弾丸を撃ち込む天峰(のキャラクター)。
相変わらず……ネットの中でだけはとてつもなく元気な女だ。
「お前……」
俺は呆れながら言った。
「そんなだから友達ができないんだぞ」
天峰ナギサ。同い年の中学二年生。
性格はごらんの通り「あれ」だ。悲しいぐらい「あれ」であり、この部活にもっともふさわしいと言える部員かもしれない。
性格の裏返しなのか、外見はおしゃれに努めていて、「前髪ぱっつんのショート」というわりと攻めた髪型をしている。この手のヘアースタイルは顔がかわいくないとマッチしないが、天峰にはけっこう似合っていた。
ただ日光に当たっていない肌は死体かと思うほど青白い。
おまけに、この世のすべてを恨んでいるかのようなすねた目つきをしているので、髪型と相まって「呪いの日本人形」みたいな雰囲気があった。
その人となりを一言であらわせば「レベル99の陰キャ」だ。
放課後のすべてをゲーム内の銃撃戦に費やしており、そんなやつが普通の女子中学生ライフを送れるはずもない。
休み時間に天峰のクラスの前を通ると、だいたいは一人で机に座って、死んだ魚みたいな目で天井付近の虚空を見つめて……。
……。
胸が痛くなるから、これ以上はやめておこう。
「ふん。古臭いな、神崎は……」
天峰はコントローラーを置くと、ようやく俺の方に顔を向けた。
「教室でバカみたいにウェーイって騒いでるやつらだけがリア充だなんて、そんなの昭和生まれの古代人の発想だ」
古代人って……。
「今は令和だぞ、令和。友達なんてネットで簡単に見つかるし、こうやって離れててもゲームだってできるじゃないか。ほんのちょっと、ほんのちょおおおっとだけ、私が教室で浮いてるからって、それだけでボッチだと決めつけるんじゃない」
まあ確かに……。
言ってることは一理あると思うけど……。
この手の話をする時、やたら早口になるんだよなぁ、こいつ。
「時代に取り残されるってホントかわいそうだなーって思うわ(笑)。
この前体育祭あったけどさ、マジで古臭い青春ごっこって感じ(笑)。
素人のリレーぐらいでよくキャーキャー騒げるなってさ(笑)。
しまいにはゴールした後泣き出す女とかいたし(笑)
テレビタレント気取りかっつーの(笑)。
ま、そんぐらいなら思春期で脳内ホルモンいっぱい出た男女が
青春やっちゃってるなーってことでまあ笑って見てられたんだけど(笑)。
全員参加のダンスとかホント意味不明じゃん(笑)。
朝練とかやってめちゃくちゃ気合入れてたけどさ、
どうせ終わって三か月もすれば誰も振り付けとか覚えてないっしょ(笑)。
仮病使って保健室で寝てて正解だったなぁ(笑)」
「……うわぁ」
思わず、声が出ちまった。
ここまで見事な根暗トークは今まで聞いたことがなかった。
弾丸のようなネガティブ単語の合間に、『(笑)』とでも表現すべき、人を小ばかにしたような笑いがちょくちょく入る。
青春を謳歌するクラスメイト達への怨念こもりまくりなこのセリフ。
やっぱりお前……ただの陰キャじゃねぇか。
「い……陰キャじゃねーしぃ!!」
天峰は目をひん剥いて叫んだ。
その迫力たるや、こっちが思わず後ずさりするほどだ。
実はこれが、こいつの性格の一番厄介なところで……。
四方八方どっからどう見ても負のオーラ全開のくせしやがって、自分が陰キャだっていう事実だけはかたくなに認めないのである。
「ちょ、ちょっとクラスになじめてないっていうだけだし!
そ、それにほら、どうせ女子中学生のやってることなんて
つまんないことばっかりでしょ?
カラオケ行ってウェーイって騒いだり、ファミレス行ってウェーイって騒いだり、部活の試合で勝ってウェーイって騒いだり、しょ、しょせん、そんなもんでしょ?」
「……お前」
輝かしい青春の一ページも、
こいつの目には全部ウェーイとしか映ってないのかな……。
「そ、そんなのいくら楽しげに見えたって、
ぜ、ぜんぜん、た、大したことないし!!
オ、オンゲのランク上げる方がマジで人生豊かになるし!」
天峰の声はすっかり震えていた。
「そ、そんな青春ごっこなんて……
ぜんっぜん羨ましくないし!!」
そう叫ぶ天峰の声は……実に羨ましそうだった。
その時思った。
こいつは……重症だ。
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