僕らの異世界英雄譚っ!
ゆな
プロローグ?
ーーー始まりは一件のラインだった。
『今夜、みんなで天体観測に行きませんか?』
真っ暗な部屋の中をスマホのブルーライトだけが煌々と照らしている。
そんな部屋の中で、小春日菜桜(こはるびなお)
は送り主である友人のJoeの真意を測りかねていた。菜桜は天体観測自体は大好きである。しかし、今夜、何度読み返しても今夜。
『今夜?』
他の三人のメンバーも同じ疑問に行き着いたらしい。トーク画面にはポコポコと困惑の声が上がっている。
『えぇ、今夜です。』
即座に
『どこでやるんだ?』
とメンバーの一人である冬真雪兎(とうまゆきと)が質問した。菜桜は彼の質問の答えより、雪兎が珍しく慎重なことに驚いた。なぜなら、雪兎は考えるより行動!を掲げ、それを実行する人間だからからである。
『おもろそうや!詳しく!』
前言撤回。ぜんぜん慎重じゃなかった。
しかし面白そうなのはすごく解る。ものすごく解る。
『雪兎の発言は置いといて』
『置いとくとは何だよ!』
『しかし本当に何処でやるんだ?』
(本物の)冷静な発言をしたのは天野律(あまのりつ)。
うちのメンバーの中の頭脳である。
………重度の軍ヲタだが。
まぁそこを見なければ頼もしい存在である。
『ん?中学に忍び込むんですよ?』
……………………………………………………………………………え?
『『『え?』』』
見事に同じコメントが並んだ。
どうやら意味のわからない、分かりたくもないコメントに頭がショートして現実逃避を始めたらしい。
『だから今から学校に登校するんですよ』
…………………………………………待て待て待て待て、
落ち着いてもう一度ゆっくり読み返す。
今から、学校に、登校。
それ不法侵入と言うんじゃ…………
『鍵は僕が用意しました。11:50までに正門前に集合ですよ』
……………………今から?
ふと時計を見上げる。
現在時刻 11:30
深夜の、である。
「…………ツッコミどころが多すぎるよ」
リミットまではあと20分。
学校までは全力ダッシュでも最低15分はかかる。
菜桜は今まで生きてきた15年間の最高スコアを叩き出しながら支度を整え、家族を起こさないようにそっと家を出た。
向かう先は学校……ではなく隣の家である。
トントントン
扉を3回ノックする。
少し待つと扉が小さく開いた。
その隙間から覗いた顔は
「よっ」
と声をかけると苦虫を100匹噛み殺したような顔をした。
蒼井陽菜(あおいひな)。我が幼なじみである。
「お前、こんな時間まで起きてんじゃねーよ……」
「陽菜は起きてるじゃん」
そう返すと、陽菜は
「俺はいいの。それよりお前の体が心配だから家帰って寝ろ」
……我が幼なじみは過保護である。過保護すぎるのである。
だがしかし、
「JoEからのライン見たよね?」
そこは長年の付き合い。気にもしないのが菜桜である。
陽菜もそのことをよく分かっているので
「……はいはい。どうせ止めても行くんだろ?」
もう出かける準備は万端である。
「さっすが~!」
良く出来た幼なじみだ。
「わぷっ」
そのうえ学校の夏服で出てきた菜桜に着せる動きやすいポンチョまで用意している。
「風邪引くから着とけ」
少し乱暴に着せられたポンチョはほんのりと温かかった。
「えへへ、ありがとう!」
「……はいはい」
「「それじゃ、行きますか!」」
3月31日
僕らが「中学生」である最後の日に送られてきた一件のライン。
それに導かれて僕らは家から飛び出した。
まだ少し寒さの残る春の夜空の下、誰も彼もが寝静まった街の中を全力で走った。
胸を期待と、好奇心と、何かが起こりそうなワクワクとした予感で破裂しそうなぐらい膨らませながら走った。
これはあの日から始まる物語。
僕らの最強で最高な『キセキ』の物語だ。
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