第27話   親心

 なんてことでしょう?


 我が子のように可愛いマリアを守れなかったわ。


 こんなところで、お茶会などしている暇はないわ。



「皆さん、わたくし、頭痛がしますの。せっかくのお茶会ですのに、申し訳ございません。わたくしは、ここで退場させていただきますわ。せっかくお菓子もたくさん用意したので、皆さんは楽しんでいってください。それでは、ごきげんよう」



 わたくしは、丁寧にお辞儀をすると、マリアの後を追うように、庭園から王宮の中に入った。


 わたくしの専属騎士が、わたくしの背後に付く。



「マリアはどうしました?」


「廊下を駆けていきました」


「そう」


 心配だった。


 あの子は、どこにいても冷静で、廊下を走って行くような子ではない。


 女主人としてお店を開いているだけあって、いつでも堂々としていて、17歳とは思えないほどしっかりしている。


 わたくしは、まず、イグレッシアの執務室に向かった。


 あの子を支えられる者は、わたくしではない。


 心を通わせている、イグレッシアであって欲しい。


 イグレッシアの執務室の扉を叩くと、直ぐに扉が開いた。



「母上、どうかなさいましたか?」



 どうやらイグレッシアは、休憩をしていたようだ。


 テーブルにお茶が出ている。


 イグレッシアの仕事の補佐をしている若い宰相が、わたくしにお辞儀をした。


「イグレッシア、直ぐにマリアのとこに行ってちょうだい」



 わたくしはお茶会でのあれこれの話をした。



「マリアは自分が貴族学校を出ていないことを、気にしておりましたから」


「泣いているかもしれないわ」


「母上、知らせてくださり感謝します」



 イグレッシアは、同い年の宰相と言葉を交わすと、直ぐに部屋を出て行った。


 わたくしも直ぐに部屋を出た。


 その足で、陛下の部屋に向かった。


 ノックをすると、返事があった。



「リオン、今、いいかしら?」



 扉が直ぐに開けられた。


 この国の国王陛下だ。



「シル、どうした?まだお茶会の時間だろう?」


「それが」



 わたくしは、この国の出身ではないので、貴族間の煩わしい付き合いについて、未だに全て理解できている訳ではない。


 我が友と呼べると思えたのは、マリアの母だけだ。その友も既に亡くなり、心から頼れる友人はいない。


 問題が起きたときは、早めに知らせてくれと言われているので、今回のメアリーの発言についても、きちんと話をしておく。



「カスカータ侯爵か。きちんと言葉に出して、切り捨てておけばよかったな。マリアーノ嬢の心が心配だが、イグレッシアが支えるだろう」


「そうね。あの二人は仲良くしていますもの」


「せっかく、ここに来たのだ。茶でも飲んでいくか?」


「あら、あなたが淹れてくださるの?」


「いいぞ」



 わたくしは、ソファーに座った。


 リオンは、自分でお茶を淹れている。


 わたくしとリオンは、政略結婚と言われていますが、リオンがわたくしの祖国のキルルゴ国を訪れたときに、顔合わせがあり、互いに引き合うものがあり、頻繁にリオンがわたくしの元に足を運び、文の交換をして、恋愛結婚をしたのです。


 世間は、その様なことがあったなど、知りませんから、政略結婚と呼ばれております。


 この国に来る日を楽しみに、そして、我が子が生まれるのを二人で待っていたのです。


 そして、可愛がっていたマリアを見初めたのが、我が子であったことがとても嬉しいのです。


 女の子には恵まれませんでしたが、マリアは、我が子と同じほど大切な令嬢です。


 13歳の時に、嫁に行くと聞いたときに、とても残念に思ったのです。


 その娘が、白い結婚詐欺事件に巻き込まれ、苦労をしていると知って、どうにか助けたいと思っても、王妃という立場上、表だって動けませんでした。


 今、イグレッシアの許嫁になり、王家でその身を預かり、わたくしは、楽しく過ごしていたのに、メアリーという令嬢は、礼儀がない以上に、わたくしを怒らせたのです。


 ただでは済ませない。


 でも、わたくし以上に、イグレッシアやリオンが何かしそうね。

 

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