彼岸よ、ララバイ!

駄犬

自縛

 仕掛け花火のように絢爛と手ぐすね引く様々な店が鎮座するデパートの一角でぽつねんと立ち尽くす少女がいた。皆一様に無関心を決め込み、いないものとして扱われる少女は甚だ哀れなもので、マッチ売りの少女と瓜二つだ。私は腰を引くくし、少女と目を合わせる。


「大丈夫かい? お父さんとお母さんはどこにいるの?」


 声色は努めて柔和に発する。それはさながら、犬畜生の首に縄を掛けるような気分だ。


「いなくなっちゃった」


 少女の素性は迷い子で間違いないようだ。とくに手掛かりを知る訳ではなかったが、私は少女の手を引いた。曲がるべき角を悉く当てていることを実感しているし、エレベーターに乗るなり、迷わず三階のボタンを押すほどの核心だ。エレベーターを降りると目の前には化粧品売り場が広がっており、子どもが寄り付く階ではないことは一目で解る。少し歩いた先には、下着売り場もあって私はそれを横目にさらに奥へ進んだ。様々な店が密集して手狭に感じていた所に、広場のように空間が広がった。中央には大きな観賞用の一本の木が生えていて、根本をベンチが囲んでいる。そこには、少女と同じように一際忙しなく首を回す男女がいて、少女は私の手を解いて走り寄っていく。


「おじさんに連れてきてもらったの」


 少女がそう言って、私の方を指差す。しかし、両親とおぼしき二人は此方を見向きもせずに怒気を少女へ浴びせる。


「また変なこと言って。勝手におもちゃ屋さんに行ってたんでしょう!」


 与り知らぬ所で話が進むばつの悪さに、私はその場で仁王立つしかなかった。買い物客の雑踏が身体をすらすらと通り抜けていく。少女が母親の袖を必死に引っ張り、私のことについて訴えているように見える。しかし母親は、少女の腕を掴んで誘引していく。


 五階建てのデパートの吹き抜けは、顎を上げて見上げるだけの高さがある。


「あそこだっけ?」


「そうそう。飛び降りたの」


 その瞬間、私は思い出した。手摺りに乗り出して上半身を吹き抜けに放り出す男の決死なる行動を。

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