第83.5話
「よく頑張ったじゃないか。今日で終わりだ」
「やっと……!」
「臭いが酷いから、明日一日は町に入らずに、ちゃん隅々まで身体を洗えよ。その後に衛兵団事務所に行って、身分証を返してもらえ」
「ねぇ、刻印は? この刻印、消えるんでしょ?」
「そりゃ、衛兵団の裁定次第だな。別にまだ『顔』じゃねぇんだから隠せるだろ?」
「消えないと……どうなるんだ?」
「一応『冒険者』ではいられるぞ。銅段からやり直しで、消えるまで上には上がれねぇけどな」
「……よ、よかった……」
「いいもんかよ! 銅段からやり直しなんだぞ?」
「剥奪されるよりマシだ!」
「あたし、もう冒険者なんか辞める……もう、嫌……!」
「おや、辞めるのか? それなら、身分証を返されたら憲兵詰め所に来い」
「え……?」
「変な勘違いをするなよ? 『冒険者』だから仕方なく衛兵団の要請を聞いてやったんだ。そうじゃなくなるなら、おまえ等はただの犯罪者だからな。今度行くのは『牢』じゃなくて『獄』だ」
「……う、嘘……嘘よっ! 辞めないわよっ」
「なら、早く行け。臭くて敵わん」
「ああ、ニルエス、ちょっとこっちに来い」
「……なんすか?」
「おまえの荷物に入っていた『違法書類』は押収した」
「えっ? 書類……って契約、の?」
「そうだ。本来は持っているだけで犯罪だし、教会になんか持ち込んだら『獄』行きだったんだからな? 感謝しろよ」
「……は……はぃ……」
(やばい……! やばいやばいやばい! アレがないって判ったら……あいつ等に知られたら、絶対にやばいっ!)
***
「……アステルは……小隊長殿はどうしたんだ?」
「さぁ? なんか、買ってきた髪飾りを見つめて溜息とかついて……まるで乙女のようで」
「まさか……またあの『悪い病気』が……」
「え! 小隊長殿は、お身体具合でも?」
「いや、身体は全然平気。誰よりも頑丈だから。ただ……」
(ふぅ……ああいう、ちょっと頑なで硬派なところって……いいわよねぇ……ふふっ)
(アステルは年上で強い男に弱いからなぁ……しかも魔法師で金持ちで、絶対に独り身って判ってるし……)
(今度は、絶対に妻子持ちじゃないし、あの人もの凄く強いし! 理想的よね! 顔は……少し無愛想だけど、悪くないわ!)
(頼むから、変な気起こさないでくれよ……姉さんっ!)
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