第27話 エデルス-2

 たった一軒あった魔具屋に、残念ながら土系の方陣はなかった。

 しかし、『耐性の方陣』が手に入った。

 白魔法系の方陣は結構高価なものが多いのだが、なんと皇国貨五百で済んだ。

 安い。

 ガエスタだったら絶対に、皇国貨で七千以上はぼったくられる。


 近いので教会にも寄ってみよう。

 司書室は、無料で入れてもらえた。

「ほぅ、方陣をお探しですか。では、この辺りでご覧になれますよ」


 なんだろう、神官までやたら優しいような気がする。

 ああ……俺、もの凄くつらい所でばかり生きていたんだな……


 そしてなんと、古代語の文字がどの現代語に当て嵌るか……なんていう巻物まで置いているじゃないか!

 勿論、買い、である。

 いや『買う』んじゃなく『喜捨』だな。

 俺がカルトーラの教会で覚えてきた方陣が、これがあれば読めるかもしれない!


「凄い。こんなもの初めて見た……」

「そうでしょうとも。この完全な対応表も、正典が完訳されたればこそなのですよ」


 そう言うと、その神官はとても誇らしげに微笑む。

 なんでも、教会一等位輔祭が全て古代文字で書かれた神典と神話を、完全に訳したのだそうだ。

 その『正典』とやらのおかげで、今まで読めなかった古代文字が随分と読めるようになったらしい。


「まだまだ臣民には広まっていませんが、魔法師であればこの呪文じゅぶんを読みたいと思うのは当然ですからね! 輔祭様はこの国でも、最上位といっていい魔法師でいらっしゃいますから!」

 へぇ。

 本当にこの国は『魔法師の国』なんだなぁ。

 そう思いながら、いくつかの方陣が載っている本を見せてもらう。


 あ、あった、あった!

 これ、【土類魔法】の方陣だ。

 お、この【植物魔法】ってのもいいな!

 畑なら役に立つかもしれない。

 目当ての魔法も手に入ったことだし、今度こそ依頼主の所に行かないと。



「すまん、魔法師組合で依頼を受けてきた。バーラムって人の家はここであってるか?」

「ああ、そうだよ。助かるよ、引き受けてくれて」


 家の中に通されると、子供達がわらわらと飛び出してきて吃驚した。

「すまないねぇ、ちょっと妻の具合が悪くって、子供達が……ああっ、こらっ! そっちは駄目だって!」

「奥さん、病気なのか?」

「ちょっと怪我をしてしまったんだ。治りが悪くて……」

 どうやら医師は好きじゃないし、すぐに治るといって治療に行っていないらしい。

「俺は回復系も使える。ちょっと診てもいいか?」

「えっ……い、いいのかい?」


 構わないよ、と言って奥さんがいるという寝室に入らせてもらった。

 ……この家、スゲェ良い魔法が付与されているな。

 どの部屋に行っても、全然温度が変わらない。

 こんなに寒い日なのに、火も焚かずにいられるなんて。


「ん……? これ、どこで怪我をしたんだ?」

「十日ほど前に……西側の林で堆肥にする枯れ草を取っていてねぇ。転んじゃって」

「転んだ時にぶつけただけじゃ、こうはならない。なんか、変なものに触れなかったか?」

 腕が腫れていて地面に擦ったのであろう肘の辺りが、ぐちぐちと膿んでいる。


「え? あ、そういえば……近くに鼠の死骸があったよ。ちょっと手に付いちまって……」

 鼠……まさか、毒があったのか?

 とにかく、これは回復より先に『治癒の方陣』の方が良さそうだ。


「まぁ! 痛みがなくなっていくよ」

「取り敢えずこれで大丈夫だが、この回復の方陣札を腕に巻いててくれ。そうすれば朝までにはかなりよくなるはずだ」

「あ、ありがとう! すまない、依頼とは全く別のことなのに……」


 奥さんも子供等も喜んでくれている。

 バーラムさんは随分恐縮してしまっているみたいだったので、気にしなくていいとだけ言って、俺は本来の依頼の仕事に取りかかることにした。

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