★ 契約獣:安分守己(あんぶんしゅき)
※引きつづき、契約獣カチューシャの視点です。
*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*
女帝の名前になって、白い犬になって、やっと敵の喉元を
いくら飼い犬っぽい演技をしてたからって、山の中なのよ。牙娘じゃあるまいし、常識人なら魔獣の可能性を疑うべきよね?!
そもそも就業中に遊戯板で賭け事だなんて、どれだけ
数百年ぶりの地震が起こったと
おまけに何なの、あの突風。若造が外を
~~なんだか納得が行かないのはわたしだけ? そもそも論として、あんなひょろっちい雑魚、全員いたぶって惨殺でしょ。折角、新しい身体に魔力が満ち満ち
満開の花は、黄の
普通は森の奥深くに潜んでいる超希少種。人間が入手できるのは、気紛れに落とした花だけ。萎れかけたそれを辛うじて地面から採取し、高額で取引するの。魔道士や竜騎士は、森で落ちているこの花を見つけたら王宮に納めないといけないって法律があるくらい。
確か王族が祭儀でお茶を捧げるときに浮かべるのよね。乾燥させた花びらというか、
なーのーに! こんな人間用の道の直ぐ
あの高度で花にたかってる黄色の奴だって、一応は
牙娘の方も警戒する様子がないし。竜はともかく、さすがに人間が花を取ろうものなら――って、なんで許可するの! 女王でしょ、怒りなさいよ、攻撃しなさいよっ。
少し歩いたら、今度は
この調子だと、伝説の
ぬるま湯続きじゃ、いつまで経っても神殿の魔道士と戦えないじゃない。この娘、もうちょっと鍛えないと駄目だと思うの。
運動神経が壊滅的なのは、荒廃した世界で長年ちゃんとした食事にありつけなかったせいだわ。
だから気を利かせて、人里まで全速力で駆けてって、パンを調達してあげたのに! 牙娘ってばなんて言ったと思う?
≪気持ちはうれしいけど……ごめんね、ありがとう≫
はあ? 何それ。
で、戻してこいですって。このわたしに!
≪食べないと死ぬでしょ!≫
≪いや、人間も含めて動物って、少々食べなくても平気なように体が出来てるよ?≫
昨夜からロクに食べてなくて、お腹が空いているクセに、牙娘ってば晴れやかに微笑んでいるの。殺すのも嫌い、盗むのも嫌い。何それ何それ何それ。
今まで契約した人間は皆、わたしに平然と命じてきたわよ。気に入らない奴がいるから殺せ、欲しい物があるから盗んでこいって。
≪ごめんね≫も≪ありがとう≫も、言ってもらったことなんか久しくない。だからこっちだって遠慮なく魔力を
――青い馬の連峰。
そっか。あの場所を思い出した理由が何となく解った。わたしのこと、
あいつだって殺しも盗みも命じてきたけど、あの山で死ぬ前に≪すまない、ありがとう≫って言ったのよ。自分が死んだ後も人間にわたしが害されないよう、『聖獣』って
だからずっとこの国を守ってきた。あいつにとって命よりも大切なものだから。
でも今はもう、何をすべきかよく解らない。
どんなに頑張ったって、目先の権力や金のために人間は腐敗していく。あいつが必死に防ごうとした神殿魔道士の暴走は、
いくら竜騎士に魔道士を取り締まる権限を与えたって、神殿の中に竜騎士本部を設置して見張らせたって、捕まえるのは小悪党ばかり。あいつが立ち上げた魔道士協会だって、古参の魔道士になればなる程、巧妙に監視の目を
神殿の聖女はもう何代も偽者続き。自分たちの上に位置する聖女なんて、邪魔でしかないから、これからも本物なんて探す
多分、このままだと
……胸が締めつけられるのは、何故かしら。
*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*
≪ディラヌー、いやカチューシャか、今は≫
娘と小竜が寝静まった夜半、グウェンフォールが話しかけてきた。ジジイの霊体が侵入した人形は、牙娘が枕もとに敷いた花模様の布の上に大切に置かれてる。
おままごとね、お子ちゃまなのね。上から更に別の布を布団代わりに被せようとしたのは、老いぼれ魔道士が断ったようだけど。
寒いかどうかの心配よりも、わたしが人形ごと奪って、逃走するとか思わないのかしら。
≪この娘、どう思う?≫
≪どうって……どうもこうもないわよ。弱虫だし、愚鈍だし、頑固だし!≫
もうちょっとこっちを疑いなさいよね、警戒しなさいよね。
≪まぁそこはともかく。魔力の話じゃ≫
≪魔力があったって使い方を解っていないのだから、ちっとも戦力にならないわっ≫
寝床だって、いびつな小石を周囲に置いてるの。魔石の黒色でもなければ、精霊四色でもない。川辺で拾った時の選定基準が、触り心地と握り心地って何それ。
『おまじない結界』って呼ぶくせに、肝腎の結界魔術も唱えてなかった。それを指摘したら『知らない』って言うのよ、『この
どの石にも牙娘の魔力がたっぷり
≪そちらもともかく。
≪ああ、そっちね≫
だから何って話なのだけど。詠唱なんて使うの、人間だけだもの。
≪地や火元素も無調整で器用に使い倒しおる。風に至っては、あのような回転を延々と高速で! 恐らく、どの属性とも凄まじく親和性が高い。これはひょっとするとひょっとするかもしれん≫
イヤだから何が?
≪あの曇りなき体内魔素、精霊の祝福を受けているとは思わんか?
おまけに管理小屋じゃ! ワシらとて、霊山に配置された兵士には忍び込もうとする度に手を焼かされたのじゃぞ? 本来ならば、あれ程の愚策が成功する
しかもこの季節に、雲一つない晴天! まるで四大精霊が加護を大盤振る舞いしているかのような奇跡ではないか!
決め手は、
グウェンフォールの声がいつになく弾んでいる。人間が『害虫』と呼んで忌み嫌うものたちも、全く近寄ってこないではないかと講釈が続いた。
例えば、この季節なら皆が被害に遭う大ぶりの蚊にも刺されていない。
近年では季節や種類を問わず異常繁殖して、最北のヴァーレッフェだけでなく
そういえば……霊山で見かけた青い
しかも娘が火を
あら、
≪……もしかして、わたしたちが探していた存在かもしれないってことね≫
≪そうじゃ。お前なら確かめられるか?≫
≪無理。精霊魔法はわたしの管轄外≫
途端に、がっくりと項垂れた気配が伝わってきた。だってわたしの中の魔核が邪魔するのだもの。
≪とりあえずは様子見するしかないんじゃない?≫
≪神殿の奴らには勘づかれるでないぞ≫
≪当たり前よ。だから
精霊の
≪おい。何やら物騒な手法を考えていそうじゃが、本気で連れていくなよ。あそこの坊主どもも曲者
≪あいつらと関わる気はないわ≫
上級まで極めた魔道士って、どいつもこいつも
≪娘のほうは街に出て、買い物ごっごでもさせたら、気が済むでしょ≫
≪そんなものか≫
≪幼くても女だもの、そんなものよ≫
わたしは自信たっぷりに答えた。歴代の魔道士に群がった女を見ていれば、一目瞭然じゃない。
散財するために生まれてきた生き物、それが人間の女。華美に着飾り、甘味を堪能し、流行りを自慢し、他人の不幸を喜ぶ。そんな程度のつまらない存在だわ。
――の、
*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*:.,.:*
※ここから、
読んでいただけると、大変うれしいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます