17. 管理小屋を突破せねばなりませぬ
白い犬になった元灰色猫が、女王様の
≪で、その色仕掛け作戦だけど≫
う、うんんん゛? そういう位置づけ?
≪
えーと……
二人とも、
夜まで待ったほうが、崖が点灯される。しかも管理小屋の手前で結界が掛かってしまう。うんと昔から夜間だけ発動するらしい。
フィオを閉じ込める結界を外部にバレずに新設できたのは、それを取り巻くように警備用の古い結界が霊山の出入り口に存在していたせいなのだ。
老人なら破れそうか確かめたら、
~~~どっからどう見ても立派な熊だってば、ミーシュカは!
やはり昼間のうちに突破するしかない。一回深呼吸して、私と同じ身長の緑竜を見る。
≪ごめん、フィオ。こっからいろいろとお願いしてもいい?≫
≪いいよぉ?≫
まずはミーシュカを冬眠させねば。
実は首からお尻にかけて体幹に添った中央の縫い目は開閉ができる。毛皮の上に木製カントリー調のボタンが並んでいるのはそのためだ。
お腹の中に手を入れて、ガムランボールをむんずと
≪さて。おじいさん、どっち?≫
≪……人形じゃな≫
ちっ。心臓部分を変えれば人質奪還か、と期待したのに。
くわらららん、と鳴る神秘のボールをタオルでぐるぐる巻きにして、リュックの中に押し込む。
≪フィオ、この荷物が背負えるギリギリの小ささになってくれる?≫
リュックの肩
崖下に生えているトウヒの陰を通って、麓の道まで私の荷物だけ先に持っていってもらうことに。
出来るだけ高速で、と頼むと、
≪芽芽ちゃん、置いてきたよ~≫
うわぁ、びっくりした! 早っ!
道のわきに落ちていた松ぼっくり、まだ数個しか回収してない。フィオを待っている間に拾っておく計画は断念しよう。二人で一緒に集めることにした。
老人のローブを地面に拡げて、松傘が閉じた湿っぽいのだけ積み上げていく。
褐色だけど、よく見ると赤っぽかったり、黄色っぽかったり、青っぽかったり、紫っぽかったり、四つの月色してる。
≪うん。このくらいあれば大丈夫かな。カチューシャ、出番だよ!≫
≪やっと色仕掛けの時間ね!≫
なんか含みのある言い方だな。癒しのもふもふパラダイスだってば。
サモエド犬が小屋へと向かうべく、やはり崖下へ鼻先を向けて
≪……そういえば、犬ってどんなだったかしら?≫
もっと根本的なとこで、大丈夫じゃないのがいた!
尻尾だよ、尻尾を盛大に振るのだよ。ついでにお尻まで振るのもよい。口元は半開きで、はっはっはっと元気に息して興奮度を伝えるのだよ。つぶらな瞳で輝くお星様を見上げて、きゅうううんっと鳴くのだよ。
身振り手振りを交えながら念話で力説すると、ものすごく嫌そうに顔をしかめられてしまう。
白犬は盛大に
ドアをカリカリする頃には尻尾を振りはじめたから、アドバイスは聞き入れていただけたようで何よりである。
私の祈りが通じたのか、
若い兵士たちが笑顔でカチューシャを部屋に招き入れ、ドアが閉じられる。その瞬間、今度はフィオが松ぼっくり満載のローブをサンタさんのおもちゃ袋のように抱えて、やはりステルス飛行で小屋前まで移動した。
樹皮を重ね敷いた屋根の上へ、松ぼっくりをぶちまける。と同時にフィオ自身も本来の大きさになって、お腹で窓をピッタリ塞ぐ。
今だ! 私は右手に子熊を抱え、左手の中に薄紫の補助玉を握りしめながら走りだす。全速力でもかなり遅いほうなのは仕方ない。
だけど向こうの小屋の上で、老人の遺体を焼いたときみたいなエア風船をぐるぐる回すのだけは、絶対に途切れないよう頑張る。
≪もっと風を
ところどころで、鬼熊コーチが
風の大車輪に巻き込まれた松ぼっくりが、小屋の上でポコポコと音を奏でてくれている。老人によると、この地域は何日か前にも
突然辺りが暗くなって、ざーっと天井から音がするのだ。どうか雹だと勘違いしてくれますように。
~~~でないと、室内に侵入した
走って、走って、ゼーゼー言って。久しぶりの全力疾走に横っ腹も痛くなってくるけど、それでも走って。なんかもう足がつりそう、というところでやっとフィオの尻尾前まで来れた。白いオパールみたいな
≪芽芽ちゃん、頑張って! あとちょっとだよ!≫
≪フィオ! ありがとうっ≫
元の巨大サイズだから、霊山側の窓はお腹をぴたっと密着させることで完全にカバーできていた。
それ以外には、麓方面にドアの小窓が一つあるだけ。フィオが荷物を置いて戻るときに先に確認してもらった。右足と右手をうんと伸ばし、老人の闇色ローブで麓側の窓を覆い隠している。
なんだか足が
≪カチューシャも見えないけど、ありがとうっ≫
丸太小屋を横切りながら念話を飛ばしてみたが、しばらく返事がない。壁があると届かないのかな。
≪…………さっさとしなさい!
≪もうちょっとだけ我慢してっ≫
突然なんか大きそうなのが上から降ってきたら怖いよ、誰だって。人間心理なんだよ、天候には勝てないもん。
手の平よりも長い立派な松ぼっくりを、屋根にばっこんばっこん打ちつけている犯人は私なのだけど。兵士の皆さん、
丁字路はすぐに緩い下り坂になった。小屋が見えない位置にやっと到達。鬼熊コーチの許可が出て、フィオとカチューシャにふたたび念話で報告した。
でも兵士が確認のために下まで出てきたらアウトだ。風の回転魔法の効く範囲なのか、
≪もうダメ≫
足がもつれて、これ以上は私が地面にダイブしそう。大きな岩陰に回り込んで、
≪芽芽ちゃ~ん≫
私の腰までのサイズになったフィオが、どっかに隠してくれていた荷物一式を抱えながらステルス飛行してきた。ごめん、ちょっと動けない。熊老人がさっきから大丈夫か確認してくるけど、それすらわずかに
一面の
≪
まだ息を切らしていると、カチューシャも猛ダッシュでやってくる。兵士たちを勘違いさせるために、丁字路を上へといったん移動してからの、こっちの下り道という遠回りをしてくれたのだ。
≪走るのはいーのよ。戦闘皆無の貧相な作戦なんて、もう絶っ対にやらないんだから!≫
寝転がったままお礼を伝えると、予想外の部分でお怒りだった。
≪カチューシャ、兵士さんの喉は……≫
≪
……うん、今度一回さ、『色仕掛け』の定義について語り合ってもいーかな。
≪松ぼっくりは?≫
≪子竜が去った少し後に、突風が吹いて大半が吹き飛んだわ。あんた、何かした?≫
≪――何にせよ、小屋の周りに松ぼっくりが散乱した状態でなくて良かったってことで≫
取りなそうとしたけれど、ストレス
とうとうミニ竜が私の背後に逃げ込んだ。……この世界、ホントなんかあちこちおかしい。竜族よ、もちっと踏ん張ろう。私は応援するよ。
身体を起こし、緑に戻ったフィオの
兵士がこちら方面に駆けてくる様子はない。見つかったら、某白犬がシリアルキラーに
私たち、かなり運がいい。
小屋はフィオが覆いかぶされる大きさで、わずかな窓しかなかった。新人兵士だけで気が緩んだのか、小屋の中で全員サボっていた。犬好きだったのか、お人好しだったのか、カチューシャが大歓迎された。
松ぼっくりも石つぶて並みに丈夫だった。地球産のより大きくて、出来るだけ乾燥していないのを選んだとはいえ、数十回打ちつけようが粉砕されないとは。
おまけに、あの屋根。
日頃とりわけ目立った善行を積んできた記憶はないから、フィオのおかげかな?
何はともあれ、霊山の神様方と精霊その他もろもろの皆様方に大感謝である。
私は霊山に向かって両手を合わせて拝んだ。
≪何をやっとるんじゃ≫
≪え? 山の神様にお礼。
魔道士からも兵士からも守っていただいたし、結界も奇跡的に通していただいたし、もっと言ったらおじいさんとカチューシャにも出会わせていただいたし≫
≪礼を言うならわたしにでしょ。どんだけ
そりゃ申しわけない。カチューシャにも感謝してます、と頭を下げる。確かに見知らぬ人に断りもなく触られるって嫌だわ。本当にごめん。
≪なっ! 気持ち悪いわよっ。まだ変態兵士のほうがマシ!≫
ひどい。この猫、犬になっても女王様街道を
女帝イェカチェリーナという命名は失敗したかもしれない。尊大不遜な猫を見てたら、何となく思い浮かんだのだ。
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