◆ 風の竜騎士:昼間の副神殿長と宝石商
※風(紫)の竜騎士ディルムッド視点で、回想です。
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『ディルムッド様、装飾品なぞ同じものは幾らでもございますよ』
紫の耳飾りを拾い上げた直後。
横を通りかかった
白いローブに赤い縁取りのファルヴィウス。
副神殿長で、火の選帝公の親戚筋だ。
なのに土魔法を研究する黄金
中級魔導士である
確かに立て髪といい、制服の着崩し方といい、エセ帝国貴族ぶりが鼻につく。
話題に上るたび、『下半身よ氷結しろ』と毒づくのは余計だと思うが。
『しかし、この趣向は兄が特注で――』
『そんなもの、すぐ真似するのが庶民の
俺が食い下がると、奴は
『精霊大通りに店を構える商人とて、その程度です。所詮は卑しい身分なのですから』
『では宝石商がこれを落とされたと本気で――』
『本気も何も、先ほど大きな荷物を幾つも抱えてこの廊下を通っていましたからね。聖女様がまた無茶をおっしゃったとかで、取る物取りあえずという不様な有様で』
周りに控えた下級魔導士らが、上司の証言に何度も
神殿の魔導士と竜騎士はどうにもそりが合わない。
このまま自分一人で問い詰めても、芳しい成果は期待できそうになかった。
『また貴重な情報があれば何卒』
一礼して、正門に向かう。
直属の部下であるバノックとボイドが昼食から戻ってきた。
来月の収穫祭について報告を聴きながら
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昼の休憩時間が終わる頃、でっぷりと太った男が神殿奥から出てくる。
帝都に本店を構える『銀の雪』の傘下に入った宝石商だ。
二百年続く老舗を潰し、二束三文で店舗を差し出した上で、だが。
古参の従業員は路頭に迷わせ、自分だけは支店長の肩書を得た。
今日も大小様々な荷物を抱えた制服姿の店員を二名。
外見で選んだとしか思えない護衛役の若い男を三名。
さらには貴族でも廃れた小姓役の少年を一名従わせている。
宝石で飾りたてた本人のみが手ぶらだ。
張りぼてが聖女の御用達店になれるのだから、
『これはこれはディルムッド卿!』
竜騎士で『卿』を付ける身分は副師団長からだ。
よほど風の選帝公である伯父貴へ取り入りたいらしい。
単刀直入にエルリースの耳飾りのことを
すると肥えた指に挟んで
『使用人の一人がボゥモサーレに帰郷したさいに浮浪者から買ったという装飾具と似ておりますな』
やけに
まるで事前に練習したかのように。
『私ども商売で成功した者は社会へご奉仕しなければなりません。常日頃から貧しい者が困っていれば、
ご立派に聞こえなくもない。
しかし民を蔑んだ先ほどの
下の者と自分との間にはっきりと境界線を引いている。
おまけに盗品の横流しに手を貸していないかそれは。
『残念ながら、今日はその使用人をこちらへ連れてきては……。ですが浮浪者は
デザイン的に、星が垂れ下がったこの部分が聖女様のお気に召すのではと思い持参いたしまして。拾ってくださり
『それは私の
『お兄様!? 風の選帝公家の跡継ぎとなられた……ということは一連の幼児誘拐事件の……
『出来ればその耳飾りは――』
『
『かように判明すれば、捜査が終わり次第そちらに戻す』
宝石商が
指輪をいくつも
まるで賄賂でも渡された気分だ。
芝居がかった
空を見上げれば、どんよりした曇り空。
秋の最初の月だというのに、まともに晴れた日がない。
精霊がもう冬山へ
先月まで昨年を上回る冷夏で、『毒麦虫』や『岩枯病』が
それでも王都名物のかぼちゃ祭りは、例年同様の規模で開くらしい。
かぼちゃで揺らぐ国の威信なぞ、竜に食われてしまえ。
――そんな台詞が堂々と叫べたならば、少しは気が晴れるだろうに。
風が欲しい。
この国の
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