デブないじめられっ子亀山くんはいかにして魔女っ子と出会い人生観を変え、いじめっ子達に復讐を果たしたか
ニラ畑
いじめられっ子亀山くんの日常
小学校が近づいてきた。
亀山くんは早速ドキドキし始める。足が重たくなって、これ以上進みたくなくなる。
本当は回れ右してしまいたい。だけど学校には行かなきゃいけない。
亀山くんはポケットに手を入れる。
そこにはいつもお菓子が入っている。キャラメルとかチョコレートとかグミとか。今日はチョコレートだ。
甘いものを食べると苦い気持ちが和らぐ。
だから亀山くんは、いつもお菓子が手放せない。
「おーい、デブ、デブ」
からかう声がする。教室の一角から。
亀山くんは聞こえないふりをした。すると、からかう声が大きくなった。
「おいデブ、呼んでるだろ! こっち向けよデブ!」
そこまで言われると、向きたくなくても声の方を向かざるをえなくなる。
ニヤニヤしている菊野と渡辺と酒井が近づいてきた。
「おいデブ、お前また太っただろ」
「毎日毎日甘いもんばっかり食ってさあ、絶対トーニョーになるぞ」
「トーニョートーニョーブーブーブー」
亀山くんは本物の亀みたいに首をすくめる。自分がデブなのは本当だって、そう思っているから。加えて菊野たちが怖いから。三人とも乱暴で、面白半分に足を蹴ってきたり、ぶつかってきたりするのだ。
ほら、今もそう。亀山くんの大きな背中を、肘でどん、どんと突いてくる。
「うわー! すげえ脂肪!」
「ボールぶつかっても余裕で跳ね返せるよな!」
「ていうかこいつ自体ボールだよ!」
亀山くんは小さな声で「やめてよ」と言った。
けれども菊野たちはまるで聞かなかったふりをして、小突き続ける。笑いながら。
亀山くんは鼻の奥がつんとしてきた。
クラスの子たちが声をかけてきた。
「おい、お前ら亀山いじりすぎだろ。もうやめたら」
「そいつ泣きそうになってるぞー」
皆この状況を止めようとはしているのだ。そこは亀山くんも理解している。
だが、しかし、心からありがたいとは思えない。なんとなく感じるからだ。声をかけてきた子たちが、自分と菊野たちとのやり取りを面白がっているということを。
そうこうしているうちに先生が来た。
「おい、何してるお前たち――また亀山をいじめてたのか。そういうことは止めろと言っているだろう、バカモノ」
クラスの子たちはそそくさ自分の席へ戻っていく。菊野たちは頭をかいて、口々に言う。
「いじめてません」
「ちょっとふざけてただけです」
「そうです」
亀山くんは何も言わない。ずっとうつむいたまま。目から頬へ、床へ、涙がぽたぽた垂れてくる。
菊野が小声で嫌味を言った。
「へ、泣けばいいと思ってら」
先生はそんな菊野に、面倒くさそうな目を向ける。
「お前達、亀山が嫌がることをするなと前にも言ったろう。お前達がふざけていると思っても、亀山が嫌がるなら、いじめているということになるんだ。さあ、亀山に謝れ」
「……ごめんな亀山」
「ごめんなー」
「ごめんごめん」
三人は口先だけで謝って、さっさと席につく。
先生はこれでもう事が片付いたという表情になった。そうして今度は亀山くんに面倒くさそうな目を向けた。
「亀山、お前も嫌なことは嫌とはっきり言わなくちゃいかん。だから菊野たちがいつまでもからかうんだ。しゃんとしろ。もう五年生だろう。いつまでも泣いていたら情けないぞ」
亀山くんは、つくづく思い知る。先生が自分を好いていないという事実を。
その原因は……自分がデブだから。
先生はしょっちゅう言ってくる――亀山、もう少し運動をしたらどうだ。そんなにブクブク太っていたら、体にいいことないんだぞ。子供だって病気になってしまうんだぞ――。
(先生、体育の授業が一番好きだもんな。草野球の監督もしてて……毎朝ジョギングもしてるし……)
菊野たちも体育が好きで、得意だ。それぞれ運動系のクラブに入っている。
以上のことを考えると、亀山くんは、こういう勘ぐりに至らざるをえない。先生は本当は、菊野たちのやってることを、そんなに悪いと思っていないのではないだろうか?
「授業始めるぞ、席に着け」
先生からそう言われ、亀山くんもとぼとぼ自分の席につく。
教室のどこからかくすくす笑いが聞こえた。
(僕はすごく気が弱くて、泣き虫で、かっこ悪く思われてるんだろうなあ、皆から)
亀山くんは教科書に鼻を突っ込んだ。
今の自分がいやでたまらない。
だけどそんな自分を変えたいとは、全然思っていないのだ。
どうしてかというと、怖いからだ。皆が望んでいる自分ではない自分になるのが。
鈍くて気が弱くて泣き虫の優しいデブだからこそ、皆は、いじめられたとき一応同情してくれるのだ。可哀想だと。
もしそういうデブでなくなったら、同情さえしてもらえなくなるのではないか?
(今でさえ嫌な目にあい続けているのに、もっと嫌な目にあうなんてやだ)
亀山くんはひたすら、現状維持を望んでいる。それだけを考えて毎日をやり過ごす。『優しく』あるように努力し続ける。先生から頼まれたお手伝い――花瓶の水換えとか、プリント運びとか、掲示物の張替えとか――はもちろんのこと、クラスメートから頼まれたお手伝い――ゴミ捨ての代行とか掃除の代行とか荷物運びとか――も断らない。
もちろんそういったことをし続けるのは疲れる。
でも、甘いものを食べれば大丈夫。疲れなんか忘れるのだ。ほんの一時の間。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます