22話 カリスマレビュワーって何だよ?
(マジで何がしたかったんだろうな……)
いつの間にか俺は自室に帰っていた。
その日そこから大学でどう過ごし、どうやって帰宅したのか記憶は曖昧だった。
ショックは時間を追うごとに重くなってゆくようだった。
(いや、何に俺はショックを受けているんだろう?)
ショックを受けている自分自身が少し意外で、自分がどう感じているのかもう一度見つめ直してみようと思った。
米倉に促され昔のことを思い出したせいで余計に自分の傷が抉られているというか、自分と向き合わなければならないようだった。
そもそも俺は何にショックを受けているのだろうか?
カリスマレビュワーとしての活動が普通の人間たちにとって決して理解されないこと、ネット小説というものに疎い人間からしてみたら変な人間の差し出がましい行為としてしか理解されないこと……そんなことは俺自身とっくに理解しているつもりだった。
だから今まで一度も実生活において自分がカリスマレビュワーだということを公言したことはなかった。それが先ほど成り行き上仕方ないとはいえ自分がレビュワーであることを明かし、その意義を述べることになってしまったのだ。
(クソ! 米倉が出て来てから調子狂わされっぱなしだな)
結局そうだ。米倉が俺の前に出現して俺のカリスマレビュワーとしての正体を暴いて接触を続けてきたのが悪い! すべての厄介はアイツから持ち込まれたようなものだった。
(でも、多分それだけじゃない……)
米倉が俺の前に現れた当初からこうした事態になることは多少想像しうることだった。
どんな事態になっても俺は実生活の方では何も求めていない、陰キャとしてどんな惨めな大学生活を送ることになっても別に知ったこっちゃない……俺はそう自分に保険をかけていた。それでダメージは何もないはずだった。
でも多分そうではなかったのだ。俺はそこまで実生活を捨て切れてはいなかったのだろう。
どこかでレビュワーとしての活動が何かを実生活にもたらすと期待していたのかもしれない。
カリスマレビュワーとしてアドバイスを送った作家からは時に感謝を伝えられた。本当に熱のこもった感謝を伝えられたことも何度もある。
だから草田可南子に米倉を通してアドバイスを送ったことも、米倉の話に付き合っていたことも、どこか意義のあることをしているという意識があったのかもしれない。誰かにそう言われてもそんなこと絶対に認めなかっただろうが。
赤城瞳に詰め寄られた時もそうだ。話しの流れは全部米倉に任せておけば良かったのだ。そうすれば事態は平穏無事に収まっていただろう。
でも俺は我慢できなかった。米倉のことを意識したのか、何度間近で見ても俺のことを高校の同級生だと気付かない2人に対する苛立ちがあったのか、それともネット小説を甘く見ているあの場の人間全員に腹が立ったのか……俺の深層心理は分からないが、とにかくあの場で黙っておくことは俺には出来なかった。
そうだ、結局2人は俺のことを覚えてもいなかった。
一度も話したこともないし、クラスも一緒になったこともないから当然のことと言われれば当然だが、アイツらマジかよ。という気もする。だがまあアイツらに「俺のことを記憶しておけよ、同じ高校だっただろ!」と期待するのは俺の甘えだろう。
結局は俺の甘えた態度がこうした事態を招き、そして自分でそれにショックを受けているというだけの話なのだろう。
(カリスマレビュワーって何だよ?)
今一度言葉にしてみて、俺は自嘲で笑ってしまった。
何がカリスマレビュワーだよ(笑)
対人におけるショック耐性の極めて低い俺は、当然その日のショックをそれからも重く引きずっていた。
だけど大学には一日も休まずに通い続けた。それは意地でもあるが、傷をそれ以上深くしないための俺なりの対策でもあった。
大学を休んだって俺の居場所はどこにもないわけだ。自室に籠っていれば親が不審に思うだろう。親に俺の今の事態を説明することなどは、健全な大学生活を送っていくよりも遥かに無謀な事態だった。親は俺のカリスマレビュワーとしての活動など何も知らないのだ。
何かアクシデントが起こった際には意識的にいつもの日常を崩さないこと……これが俺のライフハックでもある。とにかく俺は大学にはいつも通り通い続けた。
そもそも大学内で俺に関わってくる人間などほとんどいないわけで、俺の変化に気付く周囲の人間などは1人もいなかっただろう。
いや、もちろん大学内において俺に関わってくる唯一の人間、
ほとんど反応もしない陰キャの俺に対し、いかにも一軍女子の米倉が俺に毎日話しかけているのは他の学生からは奇異に映っていたようだ。
まあそれはそうだろう。他の学生が俺を見る視線も微妙に変わった気もするし、何の面識もない学生から妙に気を遣われたことも何度かあった。
普通の陰キャならその鋭い視線を浴びただけで余計に萎縮するのかもしれないが、俺ほどの陰キャの達人ともなればその視線はむしろご褒美というか、自分が彼女たちにとって特別な人間になれたことの証でもあるようでむしろ俺を元気付けた(別に性的な話をしているわけではない。この文章で性的なことを想起するとしたらそれは読み手のあなた自身の性的関心の強さによるだろう)。
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