17話 文野良明は覚醒する
「米倉さんがウソを言ってた? どういう意味よ?」
俺の一言に赤城瞳の瞳の色が変わる。
見た目強めの純情ギャルの視線は憎悪の色に染まっていても(いやむしろそれ故に!)俺を奮い立たせた。
「あのな、俺が米倉にやらせたんだよ。俺とコイツは小中学生時代からの知り合いだからな」
「は? 何のために?」
瞳だけでなく、米倉真智も驚いたように言葉を失っていた。
まあそもそも俺がこうも雄弁になったことに米倉は驚いていたのだろう。
「あのな、お前ら一軍女子はどういう特権意識なのか知らないけどな、ベラベラベラベラいつも声がデカいんだよ! しかもどういう風の吹き回しか知らんが、ネット小説界隈にまで土足で上がって来やがって。俺は正直お前らにムカついてたね!」
「……別に小説やネット小説をバカにしたりはしてないでしょ、私たち。……でも、気分を悪くしたのなら謝るけど……」
俺の口調に強めギャルも若干守勢に回ったようだ。
世の中のことは大抵そうだ。どれだけ正しいことを言うかなんてのは争いにおいて何の意味もない。相手の言うこと無視してどれだけデカい声を出せるか。争いに勝つにはそれだけが重要なことだ。
「あのな。俺は文野良明。カリスマレビュワーだ! お前ら素人は知らないだろがな。俺はお前らのネット小説界隈への浅い理解にたまらなくムカついてたんだよ!」
「……カリスマレビュワー……って何?」
瞳は恐る恐るといった感じで俺に尋ねてきた。
伏し目がちの表情が意外と幼く見えて可愛い。
「ネット小説界における権威。重鎮だ。俺のレビューによって1万人のフォロワーが増減する。俺のアドバイスを受け入れて書籍化を果たした作家も実際いるんだぜ?」
「…………」
俺の言葉はもちろん嘘ではないのだが、流石に瞳も簡単には俺の言葉を信用しなかった。瞳のその瞳には疑念の色が濃く残っていた。
まあそれで良い。あまりに純真だと世の中に出て行った時に苦労するからな。
「感謝しろ……って言うまでもなく草田可南子は俺に感謝してると思うけどな。 俺が米倉に言って書かせた紹介文によってPV数が増えたんだからな」
少しの沈黙があった。事情を知らない瞳にとっては俺が言っていることを理解するには時間が必要だろう。
瞳はまた恐る恐るといった様子で口を開いた。
「……そのカリスマレビュワー様がどういうつもりで可南子に絡んできたの? それも可南子の小説の人気がわざわざ出るように。ムカついてたんじゃないの?」
「別にただの気まぐれだ。ムカついてる相手が俺のやり方で一喜一憂してる様を見るのは快感だからな。それに俺は今まで小賢しいネット小説家の相手ばかりしてきたからな。たまには実験として素人執筆者育成でもやってみようかっていう思い付きだよ。……言っとくけど俺のやり方を実践すれば人気になるのは簡単だぞ」
「……その代わりに私たちに何をさせようっての? 言っとくけどあの子が嫌がることはナシよ。……っていうかこれは勘だけど、アンタはあの子の前に姿を見せない方が良い気がする。アドバイスなら私が全部伝えるし、何かその替わりに見返りが必要だってアンタが言うなら全部私が何とかするから……」
「へえ、理解が早くて助かるぜ。大好きな親友のために献身的に自らを差し出す一軍ギャル……うん。実に良いと思うぜ。なんならこれも小説のネタにしても良いかもな」
そう言うと俺は、目の前の赤城瞳を頭の上から足の先まで舐めるように見つめ直した。
「ギャルで童貞喪失してみるってのもアリかもな。……俺は文野良明。またの名を『slt―1000』。検索すれば俺が本当にカリスマレビュワーだってことはすぐにわかると思うぜ。俺の言うことに従っておいた方が彼女の小説の人気のためだと思うぜ?」
瞳の瞳がみるみる恐れの色に染まってゆく。
……中々良い反応だ。
瞳は助け舟を求めるように米倉の方を見た。
「……残念ながら彼の言っていることはある程度事実だけど……。って言うか文野君? キミはさっきから何を言っているの? 悪ふざけもいい加減にしないと流石に私も怒るわよ?」
俺の勢いに吞まれたのか、今まで黙っていた米倉だったが(華麗なる大学デビューを果たしたと言ってもコイツも内面は陰キャ女子のままだったということなのかもしれない)、俺の暴走っぷりに呆れたといった感じでようやく止めに入ってきた。
「は、悪ふざけ? バカ言え。俺はいつだって大真面目だ。そうでなくっちゃカリスマレビュワーになんかなれるわけないだろ」
俺は機先を制し米倉にも口撃を向ける。米倉にはもう少し黙っておいてもらいたかったのだ。
「ねえちょっと? さっきから黙って聞いてたら、あなた何なの?」
その時別の澄んだ声がした。
「……あ、可南子……」
赤城瞳が驚きの声を上げ、俺も声のした方を振り返ると、そこには渦中の草田可南子本人がいた。
可南子はジト目で俺たち……特に俺に対して嫌悪感丸出しの視線を送っていた。
「え、可南子、話聞いてたの!? いつから?」
俺ももちろん彼女の登場に肝を冷やしていたが、それ以上に慌てていたのは大親友であるはずの瞳の方だった。
それはそうだろう。親友に対する親愛以上の愛を告白した直後だったのだ。
「廊下でたまたま瞳の声が聞こえてきたから来たんだよ。そしたらそこの彼がカリスマレビュワーだって名乗った辺りから聞いてたんだけど」
「あ、そ、そうなんだ……」
どうやら可南子が話を聞いていたのはすぐ先ほどからで、自分の親友への想いが本人には伝わっていないということを理解し、瞳は若干ホッとしたように相槌を打った。
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