カリスマレビュワーの俺に逆らうネット小説家は潰しますけど?

きんちゃん

1話 カリスマレビュワー

 ネット小説の書き出しにおいて何より重要なのはスピーディーな展開である。

 膨大な作品数にあふれ読者の目移りの激しいこの業界。最初の何行かで世界観を描きつつ、せっかちな読者を惹きつけるような展開・本題に入なければならない。

 

 例えば一つの有効な手段はなるべく早く主人公以外のキャラクターを登場させて会話をさせることだ。会話によって読者はその物語の世界観、キャラクター同士の関係性を読み取り、テーマに入るまでの準備を無意識に済ませておくものだ。

 

 だが本作においてそれは叶わない願いというものである。

 俺、文野良明ふみのよしあきには何気ない会話が出来る友達というものが一切存在しないからだ。




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(なんだよ、更新されてないな。……ったく、作者がやる気ないんじゃ仕方ないな)


 それは中々見どころのある作品だった。

 もはやテンプレ中のテンプレと化した異世界転生ダンジョン攻略ものではあったが、キャラクターはそれなりに魅力的だったし、読者のニーズを理解した気持ちの良い展開が続く良作だった。

 だがここ2週間ほど更新が途絶えていた。


(やっぱ、更新頻度ってのは命だからな……)


 どんな良作でもある程度の期間更新が途絶えてしまえば読者は一気に減る。更新頻度というものに筆者の意識というものは表れるものだ。

『書籍化目指しています!』と筆者はプロフィール欄に掲載していたが、そう公言しておきながら更新がこれだけ滞るようでは話にならない。プロを目指すというのならば何よりも毎日書け! それが最低条件だ!


 もちろん筆者により事情は様々だろう。

 毎日更新には至らない書き手がいるのは仕方ないことかもしれないが、2週間も更新が空き近況ノートにも何ら事情の説明がないようでは読者が離れていって当然だ。


(ま、いい作品だったけどな。これだけたくさんの作品があるんだから替わりは幾らでもあるよな)


 作者のセンスの良さを思い出しほんの一瞬だけ躊躇したが、俺は大量にあるブックマーク一覧からその作品を外した。


 キーンコーンカーンコーン。

 ちょうどその時チャイムが鳴った。

 俺はスマホをポケットにしまい、カバンから教科書とノートを取り出した。




 俺、文野良明ふみのよしあきは都内の大学に通う1年生。

 先述したように他愛無い会話が出来る友達など1人もいない。

 だがそれで俺の交友関係が狭いなどと判断するのは早計に過ぎる。

 惨めなこじらせ陰キャ。最低品質人間。一度しかない貴重な青春の時間を自らドブに叩き込む命への冒涜者。そう呼ぶのは非常に浅はかだ。……うん、誰もそこまで言ってねえか。

 まあとにかく俺の人間関係は他人が思うよりも実に充実している。というよりも俺のことを求めている人間が沢山いるのだ。




(ほれ、またDMが来てるよ)


 1限目の授業が終わり再びスマホを開くと1通のDMが来ていた。見知らぬアカウントからのものだった。


『slt―1000様、初めまして。カクヨムにて『転生したら国民的アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件』という作品を連載させていただいております。PN:きんちゃんと申します。単刀直入に申しますと、ぜひ私の作品に目を通してアドバイスを頂けないでしょうか? あるいは先生もお忙しいでしょうから短いレビューを書いて頂くだけでも構いません。それも難しいようでしたらコメント等は必要ないのでレビューの★だけでも頂戴出来ないでしょうか? 先生の★が入ったとすれば私の作品の価値は一気に上がり……………………』


(バカか!)


 DMはその後もグダグダと続いていた。

 自分の作品がいかに熱の込められたものか。何か一つのきっかけがあればきっと大バズりする。先生のレビューあるいは★が投げられたとすれば、それだけで読者が倍増するきっかけになる。どうか人助けだと思ってお恵み下さい……。

 もう最後までちゃんと読む気にもなれず削除してしまったが、おおよその文意はそういったことだ。


(SNS始めたのは間違いだったかもな……)

 

 俺は少しだけ後悔した。

 何人かのフォロワーにリクエストされ、相談のために仕方なくSNSのアカウントを作ったのだが……おかげでこういう手合いが時々来る。アドバイスを求めるのなら少しは俺のことを調べてから連絡して来い!

 俺はカリスマレビュワーなのだ!

 勧められて興味のない作品を読むことなど基本的にないし、面白くもない作品を……まして読みもせずレビューを書くなんてことは死んでもしない。俺には俺のレビュワーとしてのプライドがあるのだ。

 そうした俺のプライドを理解せず、ただただ売名のために利用しようなどというコイツは、クズ中のクズ。クズの王様。こういう手合いに『物書き』などと名乗って欲しくはないのだが、まあどんなクズでも許容するのがこの界隈でもある。もしかしたらクズだから書ける作品、クズにしか書けない作品というのもあるかもしれない。

 だからこんなクズでも一応は執筆を続けて欲しいとは思っている。

 



 俺がネット小説というものにハマり出したのは高校1年の頃からだった。

 進学の際やや遠くの高校を選んだ俺は往復2時間の通学時間のほとんどをネット小説を読むことに費やした。他の暇つぶし……例えばネットゲームやSNS、動画投稿サイトにハマるよりも自分の性に合った。それだけだ。


 子供の頃から色々な本を読ませられていた影響もあるのかもしれない。

 親からは日本・海外問わず古い名作文学ばかりを読ませられていた。おかげで国語の成績は良かったが、得られたものはその程度だ。労力に見合うほどの利益が得られたとはとても思えない。

 俺がネット小説にハマったのはそれに対する反発があるのかもしれない。

 堅苦しくて説教臭い文学作品に比べ、俺が初めて触れたネット小説という世界は圧倒的に自由だった。発想も文体も世界観も本当に自由だった。ほとんど嫌いになっていた文字を読むという行為が本来楽しいものだということに気付かせてくれた。

 それからの高校3年間、俺はネット小説にどっぷりとハマっていった。


 ちょうど時期的にも良かったのかもしれない。

 俺がハマり出した高1の頃はサイトもあまり多くなかったが、ここ数年でどんどん新しいサイトが出来て読者も大幅に増えているようだ。

 中には作者に広告料を還元しているサイトもあるし、その中で人気作になれば書籍化、コミカライズ、アニメ化……まだ数は多くないが実際にそこまで到達した作品も幾つかあるようだ。

 どこの馬の骨とも分からない作者が書いたものでも、面白ければそこまで辿り着くというのは中々夢のある世界だと思う。



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