それなら急いでパフェを

もう少々お付き合いください

「いかがだったでしょうか」


 僕はステージの上に立っていた。


「こうして、男の物語は幕を閉じようとしています」


 目の前には大勢の観客がいて、その様子を静かに見守っている。


「しかし、これは序章に過ぎないのです」


 これはある男の英雄譚、その序章にすぎない。


笑顔かめんを脱いだ男はこの後世界中を笑顔にする英雄譚を繰り広げる――その予定です」


 それを聞いた観客から驚愕の声が聞こえてくる。

 そう、この英雄譚の脚本は存在しない。未来はわからない。


「脚本で縛られていたら、それはもう道化師と同じ」


 観客が再び静まり返る。


「我々は人間なのです」


 僕達は本来仮面を着ける必要がないのだ。


「仮面の魔力は恐ろしいもので、つい魅入られてしまいます」


 でも、人は自分を偽らなければ生きていけないのかもしれない。


「ですがそれは本当に自分と言えるでしょうか」


 仮面を着ければ、視野が狭まる。つまり周りの人の顔も見えなくなる。


「私は自分ではないと思います」


 僕も君も仮面を着ける。そうなってしまったら、本物ってどこにあるのかな。


「この男は笑顔かめんを脱ぐ決意をしました。そして本物の笑顔を手に入れたのです」


 そうだ。だから仮面を脱いで全てを見つめ直す必要があるのだ。


「人間は一人では笑うことができません。周りの笑顔があって、初めて笑えるのです」


 それ故に笑劇は――一人では成し得ないのだ。


「それではカーテンコールまで、もう少々お付き合いください」

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