第3話 吾輩は犬であるからCFNM。

 甘美な屈辱に満ちた儀式を済ませた。これからは、奥様は僕の正式な飼い主様である。僕は人の形をしているが、もはや人間ではない。奴隷商人は豚だと思ってた様だ。でも、僕は奥様の飼い犬だ。単なる奴隷から、犬に成り下がり、人間から遠ざかってしまった。しかし、人間から遠ざかった分、奥様との距離は縮まった。奥様の態度も、甘く優しくなった。

「イーサー、そわそわしてどうしたの?」

「奥様……えっーと、僕は裸のままで好いんですか?」

「裸のままで好いじゃない。寒いのかしら?」

「そんなところです」

 奥様は羽織っていたマントを僕の肩にかけてくれた。奥様のやさしさにキュンとした。なんか奥様の匂いに包まれた気がする。しかし、マントの丈は肝心な所を隠すには短すぎた。僕は前屈みになって肝心な所を隠すように歩いた。


 例の奴隷商人が揉み手をしながら、うやうやしく奥様を見送りに来た。

「奥様、この奴隷をお気に召しましたでしょうか?」

「大いに気に入りましたわ。銀貨一〇〇枚では安すぎますね。心付で後九〇〇枚払いましょう」

「奥様まいど有難うございます。今後ともよしなにお願い申し上げます」


 さっきの会話で豚十頭で銀貨百枚である。千枚ってことは豚百頭分なのか?

 奥様が僕にそれだけの価値を認めてくれたなんて、とっても嬉しいな。奴隷冥利に尽きる。なんか奴隷であることが誇らしくなってきた。


「あの奥様、せっかく銀貨一〇〇枚で買えたのに、どうして一〇〇〇枚も払うんですか?」

「せっかくイーサーを手に入れられたんですもの。銀貨一〇〇枚は手付金、残りの九〇〇枚は心付けよ。お買い物する時、買い叩くのは商人の振る舞い。私たち高貴なものは、買い叩かず価値見合ったお金を払うのよ。そうでないと恥をかくのよ」

「この世界の貴族様って気高いんですね」

「『この世界』……やはり、イーサーは他所の国の子なのね。この国では見かけない姿形ですもの。イーサーは、まるまると肥えていて手が綺麗よね。きっと働いたことのない子だと思ったわ」


 あの甘い儀式には魔法効果が有った。僕は犬の様に丸裸で奥様の傍に立っている。誰も僕には目もくれない。周りの人間には、僕は犬か石ころの様にしか見えないらしい。認識疎外の魔法が掛かっている様だ。奥様の真名シフタークーン、僕の真名チャルブは、魔法をかける上で必須の条件なのだろう。こう察すると、迂闊に真名を名乗れないことを痛感する。キャッシュカードの暗証番号を知られた上で盗まれるようなものだろう。

 僕は奥様の後を金魚の糞の様に付いていく。ほどよく脂ののったお尻様が揺れる様は見ていて飽きない。この世界の女性はノーパンなんだな。未確認だけど、たぶんブラもないんだろう。みんなノーパンノーブラなんだ。

 男は男でズボンを履いていない。男は膝丈くらいの「ワンピース」を着て、腰にベルトや帯、或いは縄を巻いている。たぶんフルチンでスカート履いてる様な状態だな。中には丈が短すぎて超ミニになってる奴もいる。裾からアレが見えててダサい。前世の世界なら即逮捕だな。でも、今の自分も人のことは言えた義理じゃない。僕が尻尾を立てて奥様のお尻を追いかけていても、誰も気に留めていない。


「奥方様、御用は御済みでしょうか?」

「ビビアン、待たせたわね。さぁ城に戻りましょう」

 もう奴隷市場の門から出ていた。奥様の侍女の様だ。侍女は「奥方様」と呼んでいた。奥方様よりも、若くて小さくて胸が大きい。奥方様の様な端正な顔立ちでは無い。目がクリッとしていて可愛い系の少女だ。僕は奥方様の様な女性の方が好みである。たぶん、生前からそうだったんだろう。ビビアンは僕の方に目をやった。無表情という訳でもないが、好意も嫌悪も示さなかった。せっかく露出狂の気持ちが判って来たのに、この反応は少し寂しかった。奥方様なら、鼻で笑いながら喜んでくれるところだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る