第17話 先輩、それはもはやゲームと呼べません。
那佳と笹の葉が内股になりつつ、一部お着替え及び賢者の時間を獲得する為に校舎へと走り去った後。
蘭は颯太をぺしぺし!ゆさゆさ!ぐりぐり!としながら、ぴょんこ!ぴょんこ!とベンチで尻を弾ませつつ、抗議を続けていた。
「おい颯太!聞いているのか!颯太が作った弁当を待ちわびていたのだぞ!」
だが、颯太の反応はない。
先ほどの蘭の無意識の行動に衝撃を受けたまま、気を失っている。
そんな颯太に唇を尖らせる蘭はふと、先ほど立ち寄った演劇部部室での綾乃の言葉を思い出した。
●
『蘭ちゃん。颯太くんはね、人気のある男の子だと思うの。これから、もっともっと颯太くんのファンが増えてって蘭ちゃんが弟子でいられる時間がどんどん減っちゃうかもね。だから今のうちに、もっと仲良くなれる方法、伝授しちゃうよ!……もし蘭ちゃんがやらないんだったら、私がチャレンジ、しちゃおっかな~?あ!これで借りはチャラ!貸し50個だよー!』
だよー!
だよぉ……
おぉ……
●
そう話していた綾乃を思い出した蘭は、むむむっ、と眉根を
(あの綾乃の表情……私がやらねば、綾乃は本気で来るな。だが、いくら綾乃といえども断じて……一番弟子の座を譲る訳にはいかん!)
蘭は、ごそごそ、と自らの巾着袋を漁り始めた。
(ぬ、これだな)
蘭は袋から、箱型のお菓子を取り出す。
箱の封は既に解かれ、中の袋が見えている。
蘭は袋を割いて、チョコでコーティングされたものを指で摘まんだ。
中身の菓子はどれも折れているが、初めて目にする蘭はその異様さに気づかない。
(……これを端から互いに食べていけば良いと綾乃は言っていたが、思ったよりも短いのだな。ま、構うまい。これで一番弟子の座が揺るぎないものになるのだからな)
にまにま。
微笑んだ蘭は菓子の端っこを咥え、颯太を見やる。
が、颯太は未だに目を閉じたままである。
つんつん。
ぺし、ぺし。
ぐいぐい。
ゆっさゆっさ。
蘭が颯太を起こすべく、つついたり肩を叩いたり引っ張ったり、菓子を咥えたまま呼んだり揺らしたりするが、颯太は目を覚まさない。
と、そのうちに。
唇についたチョコの甘さについ、ぽりぽり、と食べてしまった蘭。
(む。美味。空いた小腹には堪らんな、この菓子は)
ぽりぽり。
もぐもぐ。
ぺろりん。
ぽりぽり、ぽりぽり。
瞬く間に、菓子が蘭の腹へと消えていく。
結果。
(ぬ、しくじった。菓子が無くなってしまうではないか。そもそも、だ。何故に和樹に連絡をしてまで頼んでおいた私の分の弁当を食べ、寝こけておるのだ?)
颯太の弁当を先ほど自分で食べきったことを覚えていない蘭。
だが、菓子をつまんだ事で腹が満足した蘭は、再度菓子を口に咥えた。
つんつん。
ぺし、ぺし。
ぐいぐい。
ぽよぽよ。
ゆっさゆっさ。
颯太を起こそうと頬をつんつんし、膝をぺしぺしと叩き、袖をぐいぐいと引っ張り、ぽよぽよと上半身をぶつけ、菓子を加えたまま名を呼び、両手で揺さぶる蘭。
だが、颯太は眉をぴくり、と動かすも目を覚まさない。
蘭は口の甘さに耐え切れずに菓子をぽりぽり、と食べながら懊悩する。
(全く目を覚まさぬ!これでは、私が颯太と堅い絆を結ぶ前に弟子入り希望の者達がわんさか来てしまうではないか!私だ!私なのだぞ一番は!)
蘭は、むむぅむうぅ、と唇を尖らせ、ベンチから立ち上がり颯太の前を行ったり来たりし始めた。
そこに。
戻ってきたすこぶる晴れやかな表情の笹の葉と、顔をツヤツヤと輝かせた恥ずかしげな那佳が、『何をしてるのかしらん?』と蘭を眺めつつまたいつもの席に座った。
そんな二人を気にも留めず、うろうろとする蘭はふと昔の事を思い出した。
(そう言えば、だ。昔、熟睡していた所を姉上に鼻を
ぽん!と手を叩いた蘭は、するすると颯太に近寄っていき、その鼻を抓んだ。
きゅ。
(ふふふ、さあ目覚めるがよい)
鼻を抓まれた颯太は、むうぅ、ふんむぅと苦しげな顔を浮かべ始める。
そして、そんな颯太を見た蘭は。
(颯太はどのような表情でも
蘭は颯太の顔を眺めているうちに、居ても立ってもいられなくなってきた。
が、颯太は未だ目覚めない。
業を煮やした蘭。
「颯太、いい加減に目を覚まさぬか!ええい!これであればどうだ!」
ぎゅむー!
蘭が颯太の頭を抱え込み、颯太の顔が蘭の胸の中に沈んだ。
それを見た那佳は自らの胸を見てしょんぼりし、笹の葉はドヤ顔で那佳の肩に手を置き、瞬時に関節技を決められて『ぎ、ぎぶぅ!』とタップする。
そして、鼻と口を一気に塞がれた颯太は当然の如く呼吸ができなくなり。
「…………?……?!!ふむうぅぅ?!」
顔を膨らみから引きはがそうとして叶わず、顔を僅かにずらして叫ぶ。
「ぜえ、ぜえ、はあっ!……く、苦しい!お姉ちゃん、じゃない、誰?!」
蒼花がするような事、しかし蒼花を遥かに超えるその弾力に悲鳴を上げた颯太。
颯太が、姉ではないと判断した理由を知ったら、涙目で壁ドンされそうである。
「む、ようやっと目覚めたか、颯太」
が、そんな颯太に構わず、頭を抱えたままの蘭が唇を尖らせる。
「せ、先輩?!……今はとにかく!離してください!鼻が、口が埋もれて……!」
「蘭だ!……あまり動くな。こそばゆい。尾てい骨がぞわり、とする」
「離せばいいじゃないですかぁ、ふむむー?!!」
颯太の顔が、また蘭の胸に埋もれた。
ちなみに、先ほど止めに入った那佳と笹の葉は、今回はノータッチである。
何故なら。
自分達の指定席で、那佳は涙目で自分の胸を持ち上げたり挟む真似をし。
笹の葉は那佳の関節技で白目をむいて天を仰いでいたからである。
「もう!僕、ばっちり目が覚めました!だから、離ぶふっ!」
「これ、そのように熱い息を吹きかけるな。突端まで熱いではないか」
「ふぐー!……ぷは!じゃあ離してくださいってば!」
颯太は結局蘭の気が済むまで、中庭で胸に埋もれる羽目になったのだった。
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