第16話:勇者の憂鬱
***
学校で勉強して、家でご飯を食べて、友達と遊んで、不満はないけれど退屈な日々を俺は送っていた。
そんな憂鬱を忘れさせてくれるのは物語だった。
中でも異世界が題材が好きだ。
平凡な男が異世界に行って、苦労もなく賞賛され、美少女に好かれる夢のような世界。 そんな世界に行けたら俺だって物語のような日々を送れるのだろう、と夢想していた。
そんな時。
足元に突如現れた魔方陣。
少し怖かったけれど、それ以上に俺は期待に胸を膨らませた。
「行くぞ! 夢の世界へ!」
「つまんねー」
異世界に召喚されてからひと月ほど経った。
初めは目新しい光景に、お客様扱いにいい気になってここが俺の理想郷だと思った。 しかし時が経てばそれらにも慣れ、特別なものではなくなってくる。
そして色々なことが目に付くようになる。
「魔王はいないし、ダンジョンもない。 奴隷も禁止されてるし、テンプレが全滅じゃないか! おまけにチートも大したことないし!」
会いに来る貴族も話しているうちに見下しているような視線になるのが分かる。
外出も制限されているし、ストレスがたまるばかりだ。
主人公だという自意識だけが肥大化していくのが自分でも感じていた。
「帰りたい」
あそこにあったのは退屈な日常だった。 それでも今思えば充実していたし、何より居場所があった。
ここにはそれがない。
「失礼いたします、勇者様」
「何? 次はどこのお偉いさんが来たの?」
億劫に振り返ると、そこにいたのはよく見るメイド。 そして別のメイドに押し出されるように出てきた冴えない少年だった。
「彼はダンジョンマスターだそうです」
その一言で俺の興味が一気に引かれた。
***
「おお、人がいっぱいいるぞ!」
「若様、目立ってますよ」
ついに王都へやってきた。
「あれはなんだ! 見に行くぞ!」
「遊びに来たんじゃないですよ」
「はあ、水を差すんじゃない。 分かってる分かってる」
念願が叶ったのは嬉しいが、やることがあると思うと気が思う。
それもサンズべリアのような貴族ではなく、王族や教会が深く関わるような人物ということが非常に面倒だ。
迎えの馬車に乗って観光できずテンションだだ下がりのまま城へ到着した。
城内へ入り、目的の人物が休んでいる部屋の前に着いても覚悟は決まらず、
「なんで俺が」
「いつまでもウジウジしてないで、もう諦めてさっさと終わらせて観光を楽しむんでしょう」
「うう……やっぱやめ」
「さあ頑張って行きましょう!」
シュランゲに引きずられるようにして連行される。
「失礼いたします」
「そちらがキックル様?」
「ええ、もう大丈夫です」
(いやいや無責任なこと言うなって!!)
「失礼いたします、勇者様」
「何? 次はどこのお偉いさんが来たの?」
高そうなソファーに体を預ける人物がおそらく勇者というやつだろう。
彼は緩慢な動きでこちらを振り向いた。
「彼はダンジョンマスターだそうです」
彼の息をのむ音が聞えた。
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