13
鈴原の言う通り、俺は誠を見てこなかった。向き合わずに時を過ごしてきた。本当の意味で誠を見たことがなかった。
腕に抱き、見つめることで実感が湧く。
父親として自分のなすべきことと責任の重さを感じる。
他者ではあるが他人ではない。偽りの過程で手に入れた偶然の産物だったが関係は嘘ではない。否定しようにも、血の繋がりが俺達を結ぶ。
誠は俺達の息子だ。
「どう? 天使でしょ? 最高でしょ? 大好きでしょ?」
鈴原は興奮まじりに尋ねた。誠のことになると我を失う鈴原だから、その瞳はキラキラと輝いている。自慢の我が子の魅力を信じて疑わない様子だ。
鈴原はキラキラと輝く瞳で俺の返事を待つ。
それでもこいつだけは違った。こいつだけは俺を見ていた。俺を必要だと求めてくれた。困難がどうしたと、構うことなく歩み寄ってくれた。
こいつは本当に無茶苦茶で意味不明な奴だ。こんな俺を助けようとするなどまともじゃない。人の話を聞かない俺を説得して、わざわざ面倒を引き込むだなんて理解できない。
……けどまあ、なんというか、その……俺も認めようか。違う知らないと否定するのではなく、認めて楽になってしまおう。
こいつは特別だ。周りと比べてではない。そんな相対的な評価ではない。俺にとって特別で、絶対的な存在だ。
代わりの効かない、いや効くはずのない存在だ。こんなにも性格が悪くて最低で、頼もしくて力強い女はいない。こんなにも俺の心を乱す女はいない。
鈴原より魅力的な人間なんていない。
……いやごめんそれは言い過ぎた。
まだ困難が待っているというのに、気にも留めていない様子だ。返事を待つ鈴原からは何の気負いも不安も感じられない。
俺からすれば人生を終える決意をするほどに絶望的な現実だが、鈴原は気にする素振りも見せない
不敵というか頼もしいというかふてぶてしいというか。
死んでいた心に火がついたの感じる。
全てを諦め放棄したというのに、俺の心は再び燃え上がろうとしている。
鈴原によって用意された燃料で、俺はまんまと燃やされる。この火はちょっとやそっとでは消えそうもない。
脳内を埋め尽くしていた絶望と、全身を覆っていた恐怖が薄れていく。
根本的に何かが変わったわけではない。何も進展はしていないし復調の
しかしもういい。もう十分だ。もうわかった。
もう泣き言は言わない。もう諦めない。目を背けるのはやめにしよう。困難も弱さも想いも、全て認めていこう。
俺には家族がいる。可愛い誠と、憎たらしくて大切な鈴原がいる。
この二人が居れば大丈夫だ。
もう迷いはない。何故悩む? だって俺だぜ? ちょっと落ち込んでるフリをしただけのことだ。ほら、ギャップが大事って言うじゃん?
俺様が迷うことはない。全ての能力がワールドクラスで優れた俺に不可能はない。
「……ああ。さすが俺の息子だ。将来が楽しみだ」
「あぁん? てめぇの遺伝子の影響なんてこれっぽちもねぇよ。全部誠自身の力だから。って、認めたわね? やっと諦めることを諦めたのね。さすが私。私にかかればあんたなんてチョロいもんよ」
「あぁ? 誰に向かって偉そうな口叩いてんだ?」
「ん?」
さあ思う存分ぶちまけよう。
それでこそ俺達だ。
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