第15話 狩人の話(閲覧注意)
僕は高校生時代、一般の全日制高校ではなく、定時制の高校に通っておりました。
とある事情により、数年遅れで入学。
そこで、かつての中学生時代の同級生に再会しました。
シャイだった僕は、陽キャな彼とは、あまり中学生時代もそんなに交流はなかったのですが。
「味噌村くんじゃん! 久しぶり~!」
なんて声をかけてきたので、僕は渋々挨拶を返しました。
「あ……久しぶり」
その後、彼と色々、思い出話をしましたが、中学生時代はあまり楽しい過去がなかったので、億劫でした。
彼はとにかく、明るい性格で、誰ともですぐに仲良くなれる人でした。
高校の先生や友達、ガラの悪いヤンキーとも、難なく交流していて、すごいなぁと思っていました。
ある日、僕に尋ねてきました。
「味噌村くんってさ、彼女とかいるの?」
「いや、いないよ」
「え? ウソでしょ? ひょっとして、まだ童貞?」
僕はこの時、17歳ぐらいだったと思います。
「うん。そうだけど」
当然のように答えてみると、彼は急に冷たい目で、僕を睨みつけました。
「その年で童貞なの……はぁ、バカっぽい」
「……」
この日から、僕という人間は、彼の中のヒエラルキー、最下位になったようで。
見下すようになり、態度も非常に感じ悪くなりました。
「おい、味噌村。お前、まだ童貞なの? ダッセ!」
「いや仕方ないじゃん。相手がいないんだから……」
それを鼻で笑い、上から目線で物言います。
「浮いた話一つもないのかよ? だからお前はその年で童貞なんだよ、俺だったら死んでるね」
「そ、そんなに? 好き同士じゃないとさ……」
「だからぁ! その考えがダサいんだよ! さっさとどんな女でも良いから、ヤッてこいよ!」
「……どうやって、するのさ? 相手がいないのに」
「はんっ! だよな、お前みたいなやつは、女の子知り合いにいないよな。じゃあ、俺が紹介してやるよ。待ってろよ」
次に会う時、彼は一つのA4ノートを学校に持ってきました。
「おら、童貞のお前に紹介してやるよ。どれがいい?」
中身を確認すると、プリクラが沢山貼られていました。
若い女の子がたくさん、ビッシリと。
「これ……全部、君の知り合い? やけに多いね」
「おお。俺みたいな積極的にナンパしたり、女に声をかける男は、これぐらい訳ないんだよ。さ、どの子がいい? お前に紹介してやるよ」
僕は正直、紹介されるのは億劫でした。
というのも、この時、既に好きな女の子がいたからです。(のちの妻)
「いやぁ、いいよ……僕はいつか好きな人とそういう関係になりたいから」
「ダセェこと言ってんじゃねぇ! だからお前は童貞なんだよ!」
そんなことを大声で教室で騒ぎだすので、僕は生きた心地がしませんでした。
だって、近くに意中の女性がいたので……。
「とりあえず、俺が紹介してやっからよ、もう勝手に決めるからな!」
「いいって……」
なんでか知りませんが、彼は僕に童貞を捨てて欲しいそうで、多分借りを作りたかったのだと思います。
ですが、毎度毎度、相手の女の子に断られて、僕に謝罪します。
「わりぃ。ドタキャンされたわ。ま、次は絶対紹介してやっからよ!」
「もういいって……」
会うたびにプリクラを自慢げに見せつけては、
「どうだ? 可愛いだろ~?」
なんて言うので、僕は毎回、不思議に思っていました。
それは彼が手に入れるプリクラのことです。
彼の言う通り、モテモテ男だったら、そんなに女の子に困らないと思ったからです。
僕が童貞と知ってから、急にマウントを取ってきたり、
「お前はわからないと思うけど、バイクに女の子を乗せると背中におっぱいが当たるんだぜ?」
という自慢話が、どうにも童貞臭いと思ったからです。
あくまでも、僕の経験ですが、童貞を恋愛などで卒業された男性は、なんというか、余裕があると思うのです。
色々聞くと優しく話してくれる感じです。
ですが、彼にはそれが全くない。むしろ、必死すぎるぐらいだったので。
ある時、僕はプリクラの女の子たちのことを聞いてみました。
「それにしても、若くない? この子たち」
「おお、この子はまだ中学卒業したばかりだから、今16歳かな」
僕たちは、本来なら高校3年生になる年で、18歳です。
「16? この高校で知り合った子?」
「ちげーよ。ナンパだよ」
「へぇ……じゃあ、この子が中学生の時に声をかけたの?」
「そうだよ。お前と違って度胸があるからよ」
「ふーん」
他にも色んなプリクラを見ましたが、若い。
若すぎる。気になった僕は、年齢を次々と聞いてみます。
「14歳、13歳、15歳、16歳になったかな? その子たちは13歳ぐらい?」
「ねぇ、なんでそんなに若い子ばかりなの?」
「若いって対して年変わらないだろ? お前、童貞のくせして文句言ってんじゃねーぞ!」
それから数年後、僕は高校の卒業を控えていて、母校である中学校に遊びに行きました。
というか、過去の自分に踏ん切りをつけるためです。
中学の担任教師とは犬猿の仲でして、トラブルで卒業したもので。
自分の中では黒歴史でした。
担任教師は相変わらず感じ悪かったですが、他の先生たちは成長した僕を見て喜んでくれました。
「あら~ 味噌村くんじゃない! 久しぶり~ 大きくなってぇ。あなただけよ、全然顔を見せなかったの」
「はは……そうなんですか?」
「う~ん、他の子たちは、みんな毎月、下手したら毎週遊びに来てたのよ。味噌村くんもこれから顔を見せなさいよ~」
「まあ、そうっすね」
色々過去の話で盛り上がっている中、何人もの先生がこう言います。
「あれ? 彼は来てないの?」
自称、モテ男の非童貞くんのことです。
「いえ。僕、一人で来ました」
「あら、そう。あの子、卒業しても毎日のように来るのよねぇ……同じ高校でしょ? 仲良くしてる?」
この頃、僕は彼ともう付き合いをほぼやめていました。
「まあまあですね」
「良い子よね、彼って。OBとして、後輩や在校生にも優しく声をかけてくれるのよ。みんなからお兄ちゃんって言われててね」
僕はこの時まさかと嫌な予感がしました。
後に判明したのですが、(後輩の女の子たちから)
彼は母校である中学校にナンパしに遊びに来ていたらしく。
先生たちには普通に接するのですが、いろんな教室などに顔を出しては、女の子を漁っていたそうな。
ここまでなら、まあ緩い中学校ということなのですが……。
実は、ただの中学校ではありません。
特別養護学校であり、今でいう特別支援学校です。
しかも、中学部、小学部、とエスカレーター式の学校でした。
(在学している子供たちは6歳から15歳まで)
当時の養護学校は、主に心臓病やぜんそく、先天性の障がいを抱えた子供たちが多かったです。
しかし、時代の流れということもあって、心身症。
要は心を病んだ子たちも受け入れ始めたころ。
名称さえ、付けられなかっただけで、今なら確実に、発達障害や精神障害、人格障害などが診断される繊細な子供たちです。
そこに年上の彼が、文化祭など、外部の彼も普通に客として遊びに来ます。
先生にすごく可愛がってもらっていたので、在校生も気を許してしまい……。
連絡先を交換。
(このことを先生たちは把握していません)
主に中学生を標的としていたようですが。
彼の基準ですと、その下も狙っていた可能性があり得ます。
身近な人ほど、注意された方がいいのかもしれません。
馴れ馴れしいほどに、優しくしてくる人は……。
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