大ルアジュカ山脈編ー9
採掘班がルアジュカ大森林に入ってから既に数刻が経過していた。
暗く静まり返った森、代わり映えのしない景色、ひたすら歩き続けた両脚は既にパンパンを通り越し棒のようになっていた。
ドワーフ達も身の丈以上の大きな荷物を背負っての行軍に疲れてきたのか、もう誰一人口を開こうとはせず、ドワ娘も最初はぶつぶつ文句を言っていたが、途中から徐々に口数も少なくなり、最後は黙って辟易とした顔で歩いていた。
そんな永遠とも思われた森の迷宮も突如として終わりを迎える。
先頭を歩いていたドワーフが突然立ち止まると腰にぶら下げていたランタンを掲げ、頭の上で大きくぐるぐると回し始めたのだ。
一瞬何事が起ったのかと皆身構えたが、嬉しそうに駆け寄るドワーフの姿を見て、すぐさまその場にいた全員がやっと出口にたどり着いたのだと直感した。
採掘班がルアジュカ樹林を抜けると既に太陽は地平線の向こうに隠れ、辺りはすっかり夜を纏っていた。
「もう、すっかり夜ではないか」
「思ったより大分時間がかかったな。やっぱり歩きじゃきついよな」
「まったくじゃ。わらわはもう二度とあの中を歩くのは御免じゃぞ」
「まぁ、確かにそれに関して異論はないけど、ドワ娘、お前、帰りも歩きだって事忘れてないよな」
「うっ……。そ、そうじゃった」
帰りの事をすっかり忘れていたのか、ドワ娘は後ろを振り向き目前に広がる広大すぎる森を見てがっくりとうな垂れていた。
「……領主様、姫様。お話し中すみません。す、少しよろしいでしょうか」
おどおどした様子で申し訳なさそうに話に割って入ってきたのは、行軍の際、先頭を歩いていたドワーフの青年だった。
「ん? どうした」
「あっ、いえ。そ、その、今日これからどうしたものかとご相談に伺ったのですが……」
ドワーフはそれだけ言うと頭にかぶっていた帽子を手に取り両手で握りしめ一歩下がって、じっとこちらを見つめ俺の言葉を待っていた。
もっと明るいうちに森を抜けられていれば少し辺りを見て回りたかったのだが、
これだけ視界が悪くなっては無暗に動き回るのは危険だろう。
今日はこのあたりで夜を明かすほかないか。
「えーっと、お前の名前は……」
「ザ、ザックと申します」
「こう暗くちゃ何もできないし、明日に備えて今日はもう早く休もう」
正直言えば、そこに座り込んでいるお姫様ではないが、俺ももうくたくたなのだ。
風呂にでも入って早く眠りにつきたい。
「そういう訳だから疲れている所悪いんだが、何人かで手分けして休めそうな場所を探してきて欲しいんだ」
「あ、あの、じ、実はここからすこし登ったところに見晴らしの良い高台がありまして、きょ、拠点にするにはそこがいいかと」
「なんだ、もう見つけてくれてたのか?」
「は、はい。付近を見回ってましたら偶然。ちょうど近くに小さな泉もありましたんで、領主様と姫様にご報告をと」
「そっか。それは助かる。もう少し休憩したら移動するから、皆にそう伝えて来てくれないか?」
「わ、わかりました」
ザックはその場で一礼すると、くしゃくしゃになった帽子を被り直し、それからもう一度軽く頭を下げこの場を後にした。
夜とは言え、煌々と輝く月と無数の星々が大ルアジュカ山脈全体を照らしてくれているおかげで、森の中より今の方が余程明るい。
山を覆う雪に月明かりが反射し、一面に雪月花が咲き乱れているようだ。
休憩を終えた採掘班一行はザック案内の元、高台を目指し隊列を成しゆっくりと裾野を登っていく。道中、ふと遠くに視線を向けると、ルアジュカ樹林の向こう、出発地点に小さな明かりが幾つか見て取れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます