ドワーフ王国のドワ娘姫ー16








「いい加減その粗暴な振る舞いは直してもらいたいものですね。元王宮兵士長殿」








「けっ、余計なお世話だってんだよ! てめぇこそ、そのくそ悪い性格なんとかした方がいいんじゃねぇのか?」








「やれやれ。貴方とは建設的な会話は永遠に出来そうにありませんね」








「何が建設的だ。ちっ、本当にむかつく野郎だぜ」








「それはお互い様でしょう。それで一体何の用があってここに来たのです? 私はあなたのような暇人と違って色々と忙しいのですよ。まさか私に喧嘩を売りに来たわけではないのでしょう?」






「当ったり前だ! こんな場所まで足を運んだのはこれに書いてあることをてめぇに問いただすためだよ!」








ガイアは腰のベルトに挟んであった例の広報紙を手に取ると、テーブルに飾ってある花瓶がひっくり返る程の強い力でトールキンの目の前に叩きつけた。








「この記事は一体全体どういうことだ! こんな出鱈目な物を街にばら撒きやがって!」








ガイアの憤怒の表情とは対照的にトールキンは至って冷静な装いで目の前の記事に目を落としていた。








「……あぁ、これの事ですか」






「おい、トールキン! これがどういう事か説明してもらおうじゃねぇか!」






「説明もなにもこれに書かれていることが全てですよ」






「じゃ、なにか? 姫様は本当に殺されちまったって言うのか?」






「そういう事です。この記事は出鱈目などではありません。……受け入れられないあなたの気持ちはよーく分かりますが、事実フレデリカ王女は亡くなられたのです」








「そこまで言うなら、てめぇは姫様の亡骸を確認したんだろうな」






「当然です」






「それは本当に本物の姫様だったのか?」






「えぇ、間違いなく。幼い頃から姫様の教育係をしていたこの私が見間違うとでも?」






「それは分からねぇぞ。なんせ、この世には同じ顔が3人はいるっていうからな」




「なにを馬鹿なことを」




「そうだ、トールキンン。俺が献上した王家の指輪、姫様はちゃんと身に着けていたか?」






「えぇ、左手の薬指に」






「そうかしてたか。……なら間違えようがねぇな」








そう言うとガイアはガクッと肩を落とし項垂れると、時折小刻みに体を震わせていた。






「信じたくないあなたの気持ちはわかります。私も報告を受けた時、何度嘘であってくれと神に願った事か。……しかし現実はあまりに無常でした」






トールキンは唇を噛みしめると悲しげな吐息を漏らした。






「なぁ、ナオグリムはどうしている? 自分の子供がこんな事になっちまって辛いはずがねぇ。帰る前にあいつに会わせてくれねぇか?」






ガイアが願い出ると、トールキンは考える間もなく半ば反射的に首を横に振った。






「陛下の友人と言えど、それは無理です。ナウグリム陛下は心労が祟り、今は病に伏せています。たとえあなたでも今は会わせるわけにはいきません」






「……そうか。そういう事ならしょうがねぇな。色々と忙しいのに急に押しかけて悪かったな、トールキン」








「いえ、謝る必要はありませんよ。わたしがあなたなら同じようにしていたでしょうからね」






「そう言ってもらえて助かるぜ。……なぁ、トールキン」




 「なんでしょう?」






「最後にもう一度聞くが姫様は本当に指輪をしていたんだな?」






「えぇ、間違いありません」






「そうか、わかった」






ガイアは気付かれないように俺と目を合わせるとトールキンに軽く頭を下げその場を後にした。




























ファムスル山、山頂部に近い坑道の一角。






男は用心深く周囲に誰もいないことを確認すると隠し通路の入り口のスイッチに手をかけた。








音もなく静かに開いた岩壁の扉の中に入った男はそのまま闇の中へと消えていく。








足を踏み入れたその場所は一切の喧騒から隔絶された空間で、そこには足音と時折滴り落ちる水の音しか存在していない。








男が通路の奥をランタンの灯りで照らすと鉄の鎖に繋がれたフレデリカの姿がそこにあった。










フードを被った男は気を失い倒れている少女にゆっくり近づくと左手を掴み取り、白く細い指を確認した。








「――ない」






男はフードを脱いだ後、もう一度彼女が指輪をしていないことを確認すると、忌々しそうにカリカリと音を立てながら中指の爪を噛み始めた。








「なぜ王家の指輪をしてない。






まさか、ガイアが……。






いや、それは考えにくい。






だとすると指輪は一体どこに?」






男はぶつぶつ言いながらフレデリカの左手を離すと、今度は右手を調べ、さらには身体中の至る所をまさぐり探し始めた。






「なにをそんなに焦っているんだ? もしかして探し物はこれか?」






「――!」






男は声に一瞬びくっとしたが、それから特段慌てた様子を見せることなくのそりと振り向くと、ランタンをこちらにかざした。
















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