第17話
間一髪、という言葉がふさわしいのだろうか。
爆風に吹っ飛ばされつつも、俺とミルさんは役所の広場へと転移して戻ってきた。
ウィルさんの姿はない。
「あの、何が起こったんですか?」
爆発の直前、ウィルさんがストーカーがどうのと言っていた気がする。
ミルさんが服の汚れを叩いて落としつつ答えてくれた。
「……君と私が初めて出会った時、襲ってきた魔族がいただろう?」
ミルさんは言葉を選びながら言ってきた。
「いましたね」
俺は、あの時切り付けられた左腕をぎゅうっと、右手で押さえつつなるべく軽く返した。
「どうやら彼らがまたやってきたようなんだ。
気配はしていた。
さっきの爆発も、彼らの仕業だろう」
言って、しかしミルさんはすぐに言葉を訂正した。
「あぁいや、気配は一つだったから【彼】といったほうが正しいか」
言われて寒気と同時にあの灰色髪の少年のことが脳裏に浮かんだ。
二度とかかわりたくない人物がすぐ近くに来ていた。
それだけでも怖いのに、なぜか屋敷を破壊するという行動にでたという事実も中々どうして精神的にくるものがある。
「え、でも待ってください。
じゃあ、ウィルさんは……」
俺の言葉にミルさんは淡々と返してくる。
「ウィル坊自身が言っていただろう。
仕事のために残ったんだ。
まぁ、大丈夫だ。
君はこの数時間であの子の変なところしか見ていないから信じられないだろうが、アレであの子は頼りになる。
何せ――」
「次期魔王候補だから??」
するり、とミルさんが言おうとした言葉が俺の口から滑り出た。
「おや、知っていたか」
「リストさんに聞きました」
俺の返しにミルさんは満足げに頷く。
「そうか。
そう、あの子は魔族と人間の間に生まれたが、先祖返りなんだ。
つまり、地上に堕とされるまえの、牙を奪われる前の、神族だった頃の力が備わっている。
それこそ、本来の魔族に対抗できる程度の力をもっているんだ」
とてもそうには見えない。
しかし、見た目で判断はできない、という例だろう。
「うまくやるさ。そこは安心していい」
その言葉を信じるしかない。
しかし、やっぱり不安は消えない。
なにしろ、あの灰色髪は人をいたぶるのがとても好きそうだからだ。
***
アキラとミルが転移したことを気配で確認する。
ほっと息をついて、ウィルは本来の魔族、灰色の髪をした人間と変わらない外見の少年エドと対峙した。
「なんだ、お前?」
「……」
ウィルは答えず、目を細めてエドを見た。
そして、
「護衛」
短く、そう口にした。
それだけで、エドは色々悟ったらしい。
「あの人間の子供の護衛か」
「……エド、君の目的はあの子、アキラだろう」
淡々と無表情に、ウィルは必要な事だけをエドに訊ねた。
そのことに、エドは怪訝な表情を浮かべる。
「お前、誰だ?
どっかであったことあるか?
生憎、俺に天使の知り合いはいないと思うんだがな」
「……君が僕を知らなくても、僕は君を知っている。
それだけのことだよ」
ウィルの言葉をエドは都合よく解釈した。
「偽物たちの情報網も馬鹿にはできないってわけか」
思ったより情報収集能力が高い、そう考えたのだ。
「今の僕と、君がこうして顔を合わせるのはこれが初めてだ。
けれど、君が好きな子を傷つけて興奮する変態だってことを、僕はよく知っている。
だから僕は君が嫌いだ」
言いつつ、ウィルは魔法を展開する。
あちこちに魔法陣が浮かび上がる。
そして、宣言するように。
しかしやはり淡々と、ウィルは言葉を紡ぐ。
「悪いけど今ここで君には消えてもらう」
「おーおー、自信満々だな偽物種族」
そのエドの挑発的な言葉に、ウィルは少しだけ懐かしそうに微笑んだ。
でもそれは本当に一瞬で、そしてエドからすれば余裕の笑みに見て取れた。
次の瞬間、展開していたあちこちの魔法陣から鎖が出現し、エドを拘束しようと襲い掛かった。
そして、それをやはり何処か淡々と見つめながら、小さく。
本当に小さくウィルは呟いた。
「今度こそ、絶対に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。