第61話

「くっ」橙夜は立ち上がり二人の前に立ちふさがる。

 無謀だ。

「ダメ! 橙夜君!」

 澄香の悲鳴が響くが、もう回転する岩は目の前だ。

「おりゃぁぁぁぁ!」

 凄まじい気迫のと共に何者かが転がる岩に体当たりをした。

 ケレイブ・ドル岩形態は、それにより僅かに橙夜達三人から逸れる。

「イデムっ!」

 ガデムがらしくなく高い声を上げた。

 身を挺して彼等を守ったのは、イデムだった。

 だがその反動で吹き飛び、激しく洞窟の壁にぶち当たる。

「きゃああ」澄香が顔を覆う。

 イデムは無惨な姿だった。

 腕や足は拗くれ、体中赤い血に染まり、顔も半分潰れている。

「ライトニングぅ・ボルトォ」

 色んな事が起こりすぎて、橙夜には何が何だか分からなかった。

 ただアイオーンが目を開き、その指先から眩しい光が放たれた。

「グウォォ!」

 光、雷の直撃を喰らったケレイブ・ドルは人型? に戻り前のめりに倒れる。

 今までずっと呪文の詠唱をしていたようだ。

「少しぃ、遅かったぁかもぉ」

 アイオーンが嘆くように呟き、澄香の治癒魔法を受けたガデムがふらふらと倒れるイデムへと近づく。

「イデム……イデム……イデム……嘘ら、目を開いてくれ」

 橙夜は凍えた心臓を温めるかのように胸に手を置いた。

 イデムの行動がなければ終わっていた。

 橙夜も澄香もガデムもぺちゃんこになっていただろう。

「ボクにはどうしようもなかったポロ」

 ポロットは俯いて体を半回転させる。。

「イデム! イデム! イデム、わしを置いていかんれくれっ!」

 ガデムはイデムのぼろぼろの体に縋り、泣き出した。 

「……う、うるさい、わい。やかましくて、休めも、せんわ」

 凍りついた雰囲気が壊れた。

 イデムが生きていたのだ。

 澄香が彼の元に駆け、ジュリエッタとアイオーンは倒れたケレイブ・ドルに止めを刺そうと構える。

「何事じゃ? やかましいのう」

 野太い声は背後からかけられた。

「え」

 振り返ると黒い革鎧姿で大柄のドワーフがいた。

 髭はもっさりあるが、頭には髪がなく、瞳に悪意の炎がちらついている。

「ダークドワーフ!」

 ポロットが驚いた。

「こんな場所になんでいるポロ」

「ふん、コボルド共とケレイブ・ドルだけではやはり守りきんかったか」

 心底うんざりしたように、ダークドワーフは吐き捨てる。

「あれは?」

 橙夜がジュリエッタに囁くが、答えたのはアイオーンだ。

「悪にぃ、落ちたぁ、ドワーフよぉ。混沌のぉ兵でぇ、危険なのぉ」

 頷いて剣を構える。

 どうやら一連の黒幕はダークドワーフとやららしい。

「ふん、小僧。面白い事を考えているのではないか?」

 ダークドワーフは人の体程ある大きな金槌を一振りする。

「このゴリゴ様のデスターも、丁度人間を潰したがっていた頃だ」

「トウヤ」

 ジュリエッタが肩を掴む。

「あれはあんたじゃ無理。かなり力を持ったダークドワーフだわ……それにあの大金槌は魔法の武器よ」

「……魔法の武器?」

「武器に魔法がかかっているんだ。鉄の鎧を透過したりもの凄い熱だったり、ボクならあいつの相手はしない」

 ポロットも消極的だが、一連を収めるにはダークドワーフを倒すしかない。

「お前さんはケレイブ・ドルをのとどめを刺すら」

 橙夜の横をガデムが通る。

「あれはわしの敵ら」

 何も言えなかった。

 ガデムの目には切実な光があった。

 悔いているのだろう。自分の考え無しのせいでイデムに大怪我を負わせたと。

「トウヤ!」

 ジュリエッタの声に振り返ると、ケレイブ・ドルが再び動き出していた。

 アイオーンの雷の魔法によりかなり弱っているみたいだが、まだ立ち上がろうとしている。

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