エルドリア王戦記~いつも俺の物を横取りする幼馴染が、俺の好きな人に告白しようとしている時に異世界に三人とも飛ばされちゃった……権謀術策の世界で俺は王になるらしい。

イチカ

プロローグ

 研ぎ澄まされた槍の一撃をジュリエッタは体を捻ってかわそうとした。

 だが槍は彼女の脇腹、皮鎧の下をかすり、ジュリエッタは痛みに顔をしかめる。

 何とか体勢を立て直し、ジュリエッタは槍を構える敵を睨みつけた。

 豚のような獣の顔と、巨躯たる人間の体……オークは口から涎を垂れ流しながら、ジュリエッタの隙を探している。

 反対にジュリエッタも敵を観察した。筋肉でぱんぱんに膨れあがって腕には手槍、鍛え抜かれた厚い体には鎖帷子、オークにしては腕が立つ強敵だ。

 不意にジュリエッタは火がついたような脇腹の痛みを思う。それ程の深手ではないが、間違いなく皮膚が裂かれ血が出ているだろう。

 傷は一生残るだろう。

 敵を前にしながらジュリエッタは一瞬しゃがんで大声で泣き喚きたくなった。

 また傷が出来てしまった。まだ一六にもならない女の身で。

 彼女にとって、それは意外に大きな棘となり心を傷つけた。

 だが感傷に浸っている暇はなかった。

 オークが再び槍を引いた。彼女のどこを貫こうと考えているのか、オークの目は血走っている。

 ジュリエッタは持っているレイピアをオークに向けた。

 鎖帷子は確かに刀剣にとって有効な防具だ。普通の剣では切りつけても傷つけられないだろう。何せまだ女の、少女の力だ。ただしこちらの武器はレイピアである。

 針金を輪の形にして連ねてあるだけの防具は鋭い武器の突きに弱い。

 ジュリエッタにそれを教えたのは高名な剣士だった。

 父に仕えていた頼りになる勇士だ。

 だがもう彼はいない。

「お前は娼婦か冒険者になりなさい」

 ジュリエッタの耳に嘲る女の声が蘇る。

 ……負ける物か!

 彼女は奥歯を噛みしめると自らオークの手槍の間合いへと踏み行った。

 矢のように突き出される槍。ジュリエッタの左目を正確に狙っていた。槍先が徐々に大きくなっていく、だがジュリエッタはそれが最も大きくなる瞬間頭を振って避け、オークの喉元にレイピアを見舞った。

「グオゥ!」

 オークの血が周囲の草に飛び散る。ジュリエッタもねっとりとした温かい液体を全身で浴びた。

 はあはあ、とジュリエッタは血まみれで荒い息を繰り返す。

 オークの巨体がどうっと草原に倒れた。

 ……今日も何とか勝てた。

 ジュリエッタは安堵するとその場に座り込んだ。


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