149 再び北西辺境領へ⑥急な知らせ
「そうなの?」
テンダーは問いかけた。
「子供が育つにはいい環境だと思うけど」
「ある範囲まではね。だけどそれこそ第五に通わせたいな、と思う様な子はなかなかうちの様な集団で育つには難しいとこがあるのよ」
リューミンは苦笑する。
「何故、って言いたそうな顔しているけどテンダー、どうしてもここでは辛いかな、と思う子は居るのよ。絵が好きな子はある程度まではいいけど、好きすぎて全てを放り出してしまう子ではここの暮らしの中では厄介者に見られてしまうわ。たとえその絵がどれだけ凄いものであっても、日々の暮らしとは関係が無いもの」
ばっさりと言い切る友人にテンダーは目を見張った。
かつて学校の寮で朝夕過ごしていた頃には無かった表情だ。
「私はできれば皆それぞれのびのびと育って欲しいけど、限界があるのよ。だからそこは貴女に手伝ってもらいたいの」
「そうね」
テンダーは頷いた。
「テスとシフォンを任せる以上、こっちも貴女の願いはできるだけ叶えたいわ」
「何か交換条件の様になって申し訳ないけど」
ううん、とテンダーは首を横に振った。
「私も私自身のことで手一杯で、誰かのことまで気が回らなかった。もう今はその一番の問題も終わったことだし、誰かにできることがあるならしなくちゃね」
「そうなのね」
「そう」
だからこその甥と姪を連れての旅だったのだ。
*
滞在して二週間程経った頃のある午後。
「リューミン様! お客人! 電報が!」
領主の館の電信士が羊の放牧地に居たテンダーとポーレのもとに用紙を持って慌てて走ってきた。
その時二人は毛刈りの様子を見たり、作業中の女達に、最近の帝都の庶民女性に流行っている服の形や色柄の説明と、南西発信の背負い袋の説明をしていた。
「南西辺境領から大きな鮮やかな色と柄の布が入ってくるの。それを使った袋が今街で流行っているんですよ」
「でもそれ、作り方難しいんじゃないですか?」
「いいえ形は単純なんです。だからこそ色柄が大事」
そんなことを座り作業しながら口にしていた時。
「電報? 二人にね。はい」
渡された用紙をテンダーは開く。
「……え!?」
のぞき込んだポーレの表情も曇った。
二人して黙って頷き合う。
「リューミン、予定より早く戻らなくてはならなくなったわ」
「そうなの? そんな急な。って何処から?」
「帝都の店から。叔母様が倒れたって……」
「それはすぐに戻らなくちゃ!」
リューミンは慌てて二人を放牧場から館の方へと引っ張っていった。
他の三人は館の方で、連れて行く予定の少年少女と話をしていた。
「ヒドゥンさん!」
「え、何どうしたの? キミ珍しく焦って」
「私すぐに戻らなくちゃならなくなりました!」
「ああそう。じゃ俺も行くわ」
さっと彼は立ち上がった。
「ファン先生、タンダ、後でこの子等を連れてきてくれませんかね」
「ああ、それはいいが…… 何があったんだ? テンダー嬢」
「店の同僚からの電報で」
用紙を彼等の前にかざす。
「私の叔母様、うちの工房主が倒れたっていう電報が来たんです! ……そうそうそういうことを知らせてくる方じゃないから……」
「荷物を早くまとめましょう」
ポーレはいち早く気を取り直していた。
「や、荷物は後で送ればいいと思う」
ヒドゥンはそう言うと、リューミンに「一番早い支線列車はいつ出るの」と訊ねた。
「横断列車に連結する支線は、今から出れば何とか今日の最後の便に間に合います」
「じゃあごめん、今からすぐに駅まで送って貰えないかな。荷物は後でまとめてこの二人に頼んで送ってもらうことにして」
「言われなくとも、今から送る気でしたよ」
にっ、とリューミンは笑った。
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