15 羊の記憶と合同祭新情報
新学期!
噂は光の速度で回る。
「お帰りなさいテンダー、リューミン、セレ…… ってセレ・リタ、貴女ちょっと筋肉ついたでしょう!」
戻って早々、ヘレテージュ達に私達はその点を突かれた。
「いや、向こうの食事は美味しくてねえ~労働の後のごはんはやはり美味い」
「労働?」
くすくすと笑いながらリューミンは説明する。
辺境伯の地では歓待と見学と手伝いが2対3対5くらいの割合だった。
見学と手伝いは同時のことも多かったから、それを考えると大半が手伝いだった、と言えなくもない。
「戻ると皆手伝いなのよ。私も含めてね。だってちょうど羊の毛刈りが終わった後だったから」
「いやもう大変。だがなるほどああやって毛織物の糸ができるんだな、と思うと実に興味深かった」
「確かにそれはセレ向きね。で、羊の世話もしてきた、って訳?」
「そう」
何度か羊の出産にも立ち合ってきた。
すると動物としては、私も母に感謝しなくてはならないのかな? という気持ちが少しだけ芽生えた。
羊でこれだけ苦労するなら、あの細身の人はさぞ大変だったろうな、と。
それが貴族同士の結婚における義務だとは言え。
とりあえず生んでくれたことだけは感謝しなくてはならないのかもしれない、とやはり人ごとの様に思ったものだ。
何せ羊はそのあと実にしっかり子供をいたわるのだ。
牛でも馬でも山羊でも。
ともかくそこに居た動物達の姿を、伯に誘われるまま見てきた。
ローダンテ伯は「どう考えるも君の自由だ」と色々見せてくれたのだ。
作業に関しては、伯や「お母様」達が率先してやっていたのでそれに付き合った。
「セレはさすがに覚えるの早いわね」
「私が知ってるのは綿花の方だがね、まあふかふかしたものを解いて行くという意味ではそう変わるものではない」
……という中で私が毛を糸にする作業は一番遅かった。
ただ「お母様」の一人は「でも一番丁寧ね」と言ってくれた。
ああ凄いなあ、と正直この「お母様」達の公平さに少しだけ胸がちくりとした。
「来年も一緒に帰ってね」
「あら今度は私のところよ」
「私のところですってば」
ヘリテージュやキリューテリャが口々に手を挙げてくる。
「まだあと四年あるし。皆のところに行きたいわ」
私はそう答えた。
「冬は実家に戻って、乳姉妹に会いたいし」
「仲がいいのね」
「私の家族だもの。庭の花も楽しみだし」
リューミンとセレは黙って軽く笑った。
「ところで交流祭についての話があちこちから出てるんだけど、知ってる?」
「第五と今回はするって噂くらいね」
「そうなの」
ヘリテージュは声を潜めた。
「これはお姉様からの情報なんだけど、どうも今回は第五の男子校の方とも合同で歌劇をやるんですって!」
なんですって、と皆の声が揃った。
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