12 お迎えが幌馬車でやってきた

「じゃあ目指すは技術者」

「そうなりたいね」

「官立第一に入れたなら箔もついたも同然よ」


 今度は横に居るセレの肩を叩く。


「でもああ、そうだったんだ。だからセレの腕ってこんなにがっちりしているのね」


 更に腕を揉む。

 こら止して、とセレはリューミンの手を払おうとする。


「まあともかくテンダー、私の家では思いっきり家族というものを味わってもらうわよ」



 実際、乗り継いで領都駅まで到着した時既にその様子はうかがえた。

 どうやらローダンテ辺境伯の家では、娘の迎えはここかららしい。

 だがその迎えが。


「リューミンおかえりー」

「待ってたよー」


 双子と思わしき少年が彼女に飛びつく。


「わあ、第一の制服! お友達さん方はじめまして!」


 今度は少女。


「まあまあいらっしゃい」

「皆で待っていたのよ」


 そう言うのは年頃と服装からして、どうやらリューミンの言う「お母さん達」らしい。

 彼等は駅前まで幌付きの荷馬車で一斉にやってきたらしい。


「さあ乗り込んで」


 言われるがままに、私とセレも乗り込んだ。

 中にはずらりと十人以上が揃っていた。


「確かきょうだいは十人って……」

「あ、はい! 私はリューミンの兄上の嫁ですよ!」

「義姉様もう床上げしたんですか!?」

「ええ! やっぱり普段から鍛えていると産後の回復も早いっていうのは確かね!」

「もう皆、姉様も含めて叔父さん叔母さんだよー」


 あはははは、と笑い合う中、馬車が動き出した。


「ここからうちまでは半日かかるの。なので皆で来るならやっぱりこれが一番よね、ということで」

「そうそう、お弁当もちゃんと用意してありますよ。ああお二人とも、苦いのは平気?」

「苦いの、ですか?」


 そう言うと、「お母様」の一人は魔法瓶に詰めた熱湯でコーヒーを淹れだした。


「ああ……」


 セレは破顔した。


「できれば砂糖とミルクを」

「好きなの?」

「寮では紅茶か黒茶ばかりだからな。工場では結構よく皆と飲んでいた」

「働き者なのですね。さあどうぞ」


 ふんわりと独特の香りが広がった。

 私はとりあえず何もなし――で苦みにうめき、勧められる通りに砂糖とミルクを入れた


「最初はそうよねー」

「ミンもそうだったよなあ」

「そういうこと言わないでよ兄様!」

「まあまあ、で、こちらが同室のテンダーさん?」

「あ、はい…… お世話になります」

「自分も。ありがとうございます」


 セレは二人の「お母さん」に深々と頭を下げた。


「休み中に実家に戻ると、その分家計に響くという問題がありましたので、このたびのお申し出は非常にありがたく」

「まあまあ、本当にしっかりしてらっしゃる。ええ、無論うちではお手伝いが必要な時には、どちらにも容赦無く頼みますことよ」

「サラジュ母様は本当に容赦ないんだから」


 ほほほほ、と言われた側は楽しそうに笑った。 

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