10 夏休暇は辺境の友人のところへ行こう

 ともかく出身地があれこれということもあり、皆長期休暇となると、実家に友人を呼びたがった。

 私も先生から言われたことを思い出し、とりあえずリューミンの実家、北西辺境伯領への招待を受けた。


「うちの家族はともかくお客が来るの大好きなんだよ~」


と言ってくれたのが大きかった。

 誘ってくれたのは帝都近郊のヘリテージュと南東辺境のキリューテリャもあったが、それはまたいずれ、ということに。


「何だったら、セレもどう?」

「正直、食客できるならありがたい! そちらでお手伝いできることがあれば何でも!」


 ここまで堂々と言われると、もはやすがすがしいというものだった。

 ポーレからの手紙で「帰って来ないのですか」という泣き言が入っていたが、「ごめんこれも勉強」と返しておいた。



 そんな訳で私とセレは最初の夏休暇をリューミンと共に北西辺境伯領で過ごした。

 帝都からだと、横断列車の西向きに乗り、その果ての駅から支線に乗って更に~とまあ実に遠いところなのだ。

 ただ驚いたのは、リューミンには格別に迎えは来なかったということだった。


「友達が一緒と連絡つけたら、皆で二等で帰っておいで、って」

「辺境伯令嬢なのに?」

「昔は帝都には領地を通って馬を走らせて何日、ということもあったらしいけどね。今は箱に揺られてなんだから楽になったね~とかお祖父様とか言ってるもの」

「確かにこの横断列車が出来てから帝国も大きく変わったなあ」


 セレは窓から大柄な身体を乗り出し、過ぎて行く景色に夢中だった。

 私も初めてみる風景や、二等の車窓に売りに来るお菓子売りの姿とかを楽しんだ。

 そう、リューミンはその立場にはとても見えない振る舞いが面白いのだ。

 二等を取り、買い食いもし、数日かかる行路の食事は車内販売と持参したお茶だ。


「うちは面倒だ、という態度はあるけど一応護衛を付けてきたけど……」

「帝都近郊とかの貴族だとそうよね。誘拐とかも心配だし。でもうちとかの場合だと、一人取られても大軍が押し寄せる、というのが結構知られてるからね。無論自衛もするけど」

「なるほどそれは興味深い」


 セレは大きく頷く。


「でも正直、今回テンダーを誘ったのは、貴女が帰りたくなさげだったからよ」


 リューミンは少し真面目な顔になって言った。


「そんな顔、してた?」

「してたしてた。だいたい貴女、家族のこと全然話さないし。だったらきっと帰りたくないんだろうなー、とは思ったわ」

「ああそれは私も思った」

「え、そんなに分かり易かった?」

「貴族だから、まあ家々であれこれあるのは判るのよね。特にうちとかは帝都近郊の貴族とは違うっての知ってるから注意して見てたの。だけどテンダーの場合、他のお家に事情がありそうなとこともちょっと違うな、って」

「他のとこ?」

「ヘリテのとこは侯爵家で、あのひとは次女でしょ。で、下は居ないから、たぶん帰ると皆にもみくちゃにされるんじゃないかしら。だから誰かしら友達連れていきたい、ってところがあったと思うのね」

「もみくちゃ?」

「ほら、親戚回りとか。社交よ社交。女学校に入りました! そろそろだんだん社交をしなくちゃねアピール!」

「ああ……」


 きっと帰っても、それは言われないだろうな、と私は思った。

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