なんでお前らは俺(モブ)の周りに集まるんだ?

ししだじょうた

第1話 転生モブ

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 突然だが、『スプマックに鐘が鳴る』というゲームがある。

 恋愛ゲームなのだが、ある意味で類を見ない――なんというか、かなり思い切った形のゲームだ。

 恋愛ゲームと言えば、主に男性をターゲットにしたギャルゲーと女性をメインターゲットにした乙女ゲーに大別されるだろう。

 しかし、とあるゲーム会社がそんな分類方法に疑問を持った。

 メインターゲットが男性と女性で分けられるということは、ユーザーのほぼ半数を切り捨てているということではないか、と。

 乱暴な考えではあるが、ある意味一つの真理と言えるだろう。

 乙女ゲーをやる男性、ギャルゲーをやる女性もたしかに存在はするだろうが、全体で見れば少数派でしかない。

 そして、そんなどちらのユーザーも切り捨てることなく取り込むために作られたのが『スプマックに鐘が鳴る』というゲームだ。

 スプマック――campusを逆読みしただけの単純なネーミングから容易に分かる通り、学園を舞台にしており、攻略対象は20人もいる。

 ただでさえ攻略対象の数が20人もいるというのに隠しキャラもいるので実質は24人だ。

 さらに言えば、攻略スチルが1枚しか用意されていないサブキャラを含めると30人となり、DLCで追加されるキャラクターまで含めれば40人にまで膨れ上がるというふざけたボリュームのゲームである。

 人数が多いだけでどのように乙女ゲー、ギャルゲー双方のユーザーを獲得するのか? と疑問に思う人もいるだろう。

 答えは単純と言うか、何と言うか、主人公の性別を男女選択式にして攻略キャラクターは男女それぞれ20人ずつ用意するというひねりも何もない力技である。

 このゲームの特徴と言うか、何よりも驚くべき点は主人公の性別が攻略相手の選択に影響を与えない点であろう。

 つまり、男性の攻略対象を攻略するには主人公を女性にしなくてはいけないという縛りが存在しないのだ。

 そう……なんとこのゲームはギャルゲーと乙女ゲー両方のユーザーだけではなく、百合やBL好きのユーザーまで取り込もうとする強欲なゲームである。


 攻略対象が多いということは、様々な好みに対応できるというメリットもあるが、当然のことながらデメリットも有る。

 その最たるモノはキャラクターそれぞれのイベントが減る点だろう。

 制作予算かゲーム自体の容量か、原因は様々だろうが、風呂敷を無限に広げることなどできないのだ。

 そのため、攻略キャラクターが増えれば一人あたりのイベントを減らして共通ルートを長くしたり、スチルを減らすなどの形で対応するのが普通だろう。

 だが、このゲームではそういった対応がされていない。

 むしろ、攻略対象A(♂)に対し主人公の性別が男の場合と女の場合では別のテキストが用意されている他、異性時と同性時それぞれに専用のイベントまで用意されているほどだ。

 当然攻略対象の性別が入れ替わっても同様である。

 通常の恋愛ゲームのボリュームを倍――どころか、主人公と攻略対象が同性の場合もあるので実に通常の4倍というふざけたボリュームになっている。

 そんな力技でギャルゲーと乙女ゲー両方のユーザーを獲得するというコンセプトを満たした、いろいろな意味でなんとも意欲的な作品がスプマックに鐘が鳴るというゲームだ。。

 制作会社の思惑通りに普通の恋愛ゲームの倍売れる大ヒット――とはいかなかったもののそれなりに人気を博し、続編が作られる程度には人気を獲得することに成功したゲームでもある。



 さて……なぜ俺が突然ゲームの説明を始めたのか、だ。

 察しの良い読者諸兄であればおわかり・・・・であろう。

 無駄に引っ張っても意味がないのでさっさと言うが、そのゲームに転生した。

 主人公と同じクラスってだけのモブキャラだけどな。

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