【73】何もしてないのに壊れた


 ディル君に続いて、部屋の中に入る。


「うおぉ……!」


 変な声が出た。でも声が漏れるのを止められない。


 そこはディル君の言葉通り、まさに工場であった。

 木と鉄でできた巨大な容器がいくつも並んでいる。

 その間をいくつものパイプのようなもの――おそらく木製――が渡っている。

 天井が高い。二階建てくらいあるんじゃないだろうか。時空が歪んでるぞ。

 地面にはところどころ紫色の輝きが。魔力が溢れているのか。


「ね? 驚いたでしょう?」

「うん……これはちょっと予想外。これ、ディル君が用意した……ってわけじゃないんだよね」

「俺は魔力を込めて使用可能な状態にしただけです。それでもだいぶ苦労しましたよ」


 本をめくる仕草をするディル君。調べ物が大変だった、という意味だろう。


「過去の遺物でしょうね、これ。どこかの国の遺跡から、おそらく丸ごと移設されたのでしょう」

「どうしてそんなこと……」

「さあ。神様のなさることはわかりません。ただ……」


 ディル君は手近の巨大容器を撫でる。


「この城であらゆることを可能にしたい――そう本気で考えたのでしょう。それだけ、神様はカナディア様を愛していらっしゃったのでしょうね」


 なるほど、ね。

 まあ、わかるかも。

 カナディア様は生きているだけで女神のような存在感があったし。

 何より、人間から神へとランクアップするなんて、並大抵のことではない。神に愛されたというのも、あながち的外れではないだろう。


 けどさあ……。

 私は困惑しながら容器を見上げる。


「ここがすごい施設なのはわかるけどさ、どうやって動かすの? 私、自信ないよ」

「毒沼から採取した素材と魔力と水を入れて放置だそうです。シンプルですね」

「シンプルすぎて逆に不安だよ」


 完全にシステムがブラックボックスじゃん。故障したらどうすんのさ。

 私、絶対に言う自信あるよ? 「何もしてないのに壊れた」って。


「ディル君が調べた本、きっとマニュアルの類だよね。万が一のときのことは書かれてなかったの? 保守の内容とか」

「え? 基本的に持ち主の自慢話だけでしたよ。とても面白かったです」


 面白いこと書いてんじゃないよ昔の偉い人。


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