【45】違うそうじゃない


「多いよ」


 あまりにあんまりな状況のためか、ごくごく普通のツッコミをしてしまう私。

 ディル君はニコニコ笑っている。何かを期待している顔だった。


「カナディア様はあのようなお方なので、災いをもたらすものは自分で引き受けるとおっしゃられたのです。それでこの量に」

「……く。女神様なら仕方ない」


 不本意だけど、すごく納得したよ。

 カナディア様、なんて見境な――懐が広いのだろう。


「あ、この部屋にあるのはごく一部ですので。念のため」

「ディル君。私を脅してるわけじゃないよね?」


 まさか、とディル君は答えた。

 ハハハ、と笑ってもいる。

 この野郎。


 私は天を仰いだ。もちろん、事態は一ミリも好転しない。

 それから、部屋の中央に進む。まだ未完成の魔法陣を横目に、呼吸を整えた。


「主様。どうなされるので?」

「ちょっと、呪い解いてみる。自分のやり方で」

「おお……!」


 ディル君が軽く拍手する。私は苦笑した。


「いつまで経ってもディル君に聞いてばっかりじゃ、いけないもんね。少しは自分でやってみないと」

「素晴らしい心がけです、主様!」

「ありがと」


 ――ディル君に聞くととんでもない答えが返ってきそうってのは内緒で。


 この城を引き継いだのは私。城の主は私だ。

 カナディア様にふさわしくあるために、私も自分で考えないと。


「……ふーっ……」


 息を吐きながら、動き出す。

 思い出すのはアムルちゃん。

 寝室で彼女が踊っていた姿だ。

 踊りに力が宿る、宿らせることができるからこそ、アムルちゃんは覚醒した。

 だから私も、踊りに合わせて力を使ってみる。


 クルクルと舞いながら、無数の本達に魔力を振りかけていく。

 聖女の魔力で、呪いを掃き清めるイメージ――そう、これはお掃除だ。


 ――身体が熱い。

 力が私に集まっているのがわかる。

 目を閉じ、集中して、無心に踊り続けた。


 どのくらい、経っただろう。

 ディル君がそっと、私を支えた。


「お疲れ様です、主様。本棚の書物は、無事、解呪されましたよ」

「ほんと……? よかった……」


 心地良い疲れを感じつつ、目を開ける。

 心なしか、本棚が明るくなったように感じた。


 そして目に付く、丸テーブルの上。

 分厚い本が一冊、全力で闇のオーラを立ち上らせていた。


「凝縮された呪いによって、超強力な呪いの本ができました。これがあれば魔王だって呪殺可能です。さすが主様」

「違うそうじゃない……」

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