はじまりの奇蹟 ~君に出逢った瞬間に恋をした~

朔良

第1話 サクラのキミ

「こんな時間だっていうのにまだ人が多いな。」


「そうだな。」


時計を見ると、23時を回ったところだった。

警察庁近くの大きな公園を、桜葉司さくらばつかさ橘樹たちばないつきは二人連れだって歩いていた。


「ちょうど桜が満開だからな。」


司は満開の桜を見上げて言った。


「いいねぇ~。俺もユックリ花見してぇよ。」


ボヤクのは樹だ。


「はぁ~。それにしても極秘任務って言われてもなぁ。何だって俺達なんだよ!司もそう思うだろ?」


「仕方ないだろ、長官直々に言われたんだ。」





数時間前。

警察庁・警備局に在籍している桜葉司と橘樹に一本の内線電話がかかってきた。


「樹、何やったんだよ?長官直々に呼び出しなんて。」


「うーん。・・・思い当たる事はあるが長官に呼び出される程の事じゃないけどな?」


「それでもあるのかよ・・・」


そんな軽口をたたきながら、警察庁長官の執務室の前に着いた。


「桜葉司、橘樹入ります。」


「どうぞ。」


返事を聞き室内に入る。


「おお、来たな。司、樹も。まぁ、座れ。」


「はい。失礼します。」


二人揃ってソファーに腰掛ける。

長官の藤崎はなぜかこの二人の事を気に入っている様で呼び出される事はたまに有ることだ。


「相変わらず、ご活躍のようだな?」


「いえ、そんなことは。」


「謙遜するな。話は警備局長から聞いてるよ。」


「それで?藤崎長官俺達に何か?」


樹が話を逸らしてくれた。


「ああ、実はお前等に極秘任務を頼もうと思ってな。」


「極秘任務?」


二人は顔を見合せた。


「実は、外務省から内々の情報があってな。アルミナ国の第一王子のレオン・ハークライドが極秘に来日するらしい。」


「アルミナ国の王子が?」


司が呟く。


「ああ。近年日本人にも人気の観光先みたいだしお前達も知ってるだろう?」


「ええ、気候も温暖で海も美しく観光客向けのアクティビティなんかも充実してるみたいですね。」


「樹はそういうの詳しいんだな。そこの王子の警護を二人に頼みたい。」


「藤崎長官それ俺達の仕事ですか?」


「まぁ、そう言うな樹。外務省から警察庁に内々できた話なんだ。しかも、王子側はあくまでもプライベートの来日だから警備はいらないと言ってるらしいんだ。だが、いくらプライベートとはいえ来日中に何かあってはいけないからな。お前達には内密に警護をして欲しいんだ。」


「それでいつ来日するんですか?」


「明日の夕方に羽田に着くらしい。」


「明日ですか?それは随分と急ですね。」


「まぁな。その話がきたのが今朝だからな。とにかく、お前達に任せるから宜しく頼むよ!」





「ほんと、長官もムチャ振りするよなー。明日なんて。」


「仕方ないだろ樹、警察庁こっちに話が来たのが今朝じゃ。」


「まぁなぁ。それにしても王子サマが秘密の来日ねぇ~。なぁんか『ある』と思わねぇか?」


「ああ、そうだな・・・。」


司が考え込んでいると、春の風がサアッと吹いた。

長い髪がフワリとなびくのが見えた。

ふと、その女性を見ると少し離れた所から桜を見ていた。

皆が満開の桜を嬉しそうに笑顔で見上げている中、その女性は寂しそうな瞳で見つめていた。

何故かその瞳に惹かれた。

桜の花の様に儚げで消えてしまいそうだった。


一瞬女性と目が合う。一気に回りの雑踏は消え行き交う人々の存在も感じなくなった。

まるで世界に二人だけの様な感覚。

何故か、心臓が早鐘の様に打つ。

惹き付けられる様に近付こうとした時。


「・・・さ?司!」


樹に呼ばれて現実に引き戻される。


「どうしたんだよ?ぼーっとして!」


「あ・・いや、何でもない。」


もう一度女性の居た方を見る。しかし、そこに女性の姿はなかった。


「・・・・。」


「司?お前本当にどうしたんだ?」


「いや・・何でもない。行こうか?」


「あ、ああ。・・・・。」


二人は公園を後にし帰路についた。

その後ろ姿を見つめる人影があった。


「・・・・。」


風に長い髪がなびいた。

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