3.就任式って怖い
ていうか、よくよく考えてみると勇者パーティーから追放されてその後になんとなく来た村でいきなり村長になってくれってどんな罰ゲームだよ!
承諾したの俺なんだけども……。
でもやっぱりね。
背に腹は変えられませんよ。
だって美味しいもの食べたいんだもん。
勇者パーティー時代ずっと野宿で食べるものといったらそこらへんの野生動物やら薬草みたいなのしかなかったんだもん。
だからちょっとくらい美味しいもの食べても許される。はず!
……あれ?
なんか視線を感じ……あ、村長さん。
目で訴えてこないでください!
今行きます!
今行きますからー!
村長に案内されるがままについていっているとそこはステージの裏方のような場所だった。
へーこんなところ来るの初めてだわ。
意外と設備しっかりしてる。
「ちょっと村民の方を覗いてみますかね。」
村長さん……独り言大きいよ……嫌がらせ?
嫌がらせなんですか!
「ザワザワザワ」
うお!
村長がドアを開けたらめっちゃたくさんの人の声が聞こえる。
たった200人の村でこれだけの言葉が飛びかるってどれだけの人数ドアの向こうにいるんだよ……。
村長が開けたドアの向こうを少し覗いてみると、そこには大量の民衆がいた。
……え?
は?
なんで?
…………てか、ほっとんど村民全員……いや、全員ここにいない!?
いや全員では無いだろうけどそれでもパット見たかんじ170人とか180人とかいるし、お年寄りも子供も色んな人がいる。
え、えー?
どゆこと?
んーん?
えっと………………は!
衝撃的すぎて言葉失ってた。
何でこんないんの?
たかがっていったらあれだけど村長の就任式だよ?
……まじで意味わからん。
別にこの村やばいってわけでもないし……変な宗教とかも流行ってない。
なのに何で……?
「それでは村長就任式を行います。皆さんお立ちになって新村長、エイア様に大きな拍手を!」
え?いつの間に……って、村長!いつの間にあなたマイク持って司会やってんすか!
一応俺元勇者パーティーメンバーぞ?
なのに一切感づかれずにいなくなって司会始めるとか……自信なくすわー。
てか、やめてー!
そんなキラキラした表情で拍手しないで!
なんか申し訳なくなってくるから!
……いや別に悪いことは何もやってないんだけどさ?
「―――エイア様。それではどうぞ。」
うお!
びっくりした。
えーっと?
あぁ、メイルさんか。
メイルさんは俺の一応秘書になってもらっている人だ。
秘書と言っても殆ど雑用みたいなことをやってもらっている。
彼女はめちゃくちゃ優秀な人材で、学力は普通なんだけどなんか……人を引き付ける感じ?
なんか……言葉では表しにくい特別なかんじ。
なによりめっちゃ美人。
「――様!エイア様!早く行ったらどうですか!」
「あ、ごめん。ボーッとしてた。」
「みんな待ってるんですから。」
「だからごめんって。」
あのー目が怖いのですが?
だから行くって。
「ガチャッ」
ドアを開けるといろんな歓声が聞こえてきた。
これ1000人規模の声量なんだけど?
まじで何が起きてんだ?
演説台に進んでいくうちにだんだんと歓声が大きくなってきてる。
まじで膝ガクガクなんですけど。
一応演説台には来たけど……この状況下手な魔物より怖いんですけど。
とりあえずなにか喋り始めないと。
「はい。村長になります。エイリア・メイアです。えーっと……俺あんまりこういうのなれてなくてですね……色々と至らない部分もあると思いますが温かい目で見ていただければ嬉しいです。」
急に静かになった。
逆に怖いからそれもやめてくれ。
適度な感じで喋って欲しいんですが……だめ?
だめっすか。
そうですか……はぁ。
「えー、私はこの村長となりお飾りの村長ではなくなるように頑張りたいと思っています。そのためにしっかりこの村を発展させていこうと思っていますし―――」
なんか掴みは失敗したっぽい。
だんだん町民の集中力が削がれていっている。
別にやりたいわけじゃないけどやるなら本気でやりたい。
だけどこのままじゃ…………よし。
ちょっと話し方変えてみるか。
「まあ、色々話してますが私のやりたいことは一つです。発展させることなんか二の次でこれを最優先でやっていこうと現在は考えています。それは―――」
一気に俺に視線が向いてきた。
だんだんと空気を支配してるような感覚。
なんか……悪くない……かんじ…?
さっきと全然違う。
「楽しむことです。」
別に深い意味はない。
「この世界で生きるのは一回だけなんですよ。それなのに延々働いたり、辛い思いするのって嫌じゃないですか。死ぬときに胸張って楽しかったと思える人生って良くないですか?」
町民の面々はそれぞれ複雑そうな顔をしてる。
これからを考えている人。
不安そうな人。
「別に今考える必要はありません。でも、私はそんな村を作りたいと思っています。その理想を現実にするために皆さんのアイデアをお待ちしています。」
そして俺は町民に向けてお辞儀をした。
「エイア様。ありがとうございました。それでは―――。」
こうして俺の演説が終わり、そして俺はこの村の村長となった。
「お疲れさまです。エイア様。」
「うん。疲れた。」
式が終わってから一時間後。
俺は自分の家のベットの中で毛布に包まりながらメイアさんと話していた。
やっぱ自分の部屋のベットが一番安心できる。
「それにしても、何であんなに沢山の人がたかが村長の就任式に来てたんだろ。それにあの熱狂。ほんとに意味わかんない。」
「何でみんな来てるのか?そんなの簡単じゃないですか。」
「え?」
やっぱ優秀だわこの秘書。
いや、俺がおかしいだけ?
……いや、そんなことない。はず。
「考えてもみてください。ここって言い方悪いですけどど田舎ですよね。」
「うん。否定はしない。」
あくまで否定しないだけです。
これ大事。
「そんなところに超人気の元勇者パーティーのメンバーが来たら誰でもあんな反応なりますって。」
「……いや、そんなこと―――」
「あるんです。しかもそんな雲の上の人が自分たちの村の村長になってくれるんですよ。だからあんな反応しないほうがおかしいんですよ。」
なんか……それって自分を見られているわけじゃなくて経歴を見られてるかんじするんですが……
「それって、俺の魅力じゃなくて経歴の魅力だと思うんだけど……。」
「経歴も自分の力ですよ?それを見られて何が悪いんですか。」
そう言われればそんな気もしてきた……。
確かに一理ある。
俺もやっぱちょっとくらい自己肯定感を持ったほうがいいのかもしれない。
やっぱメイアさんと話してたら不思議な感じする。
……そういえば勇者パーティーにもそういうのいたなー。
もう関わることは無いだろうけど。
アイツら今頃何してんだろ。
死ななきゃいいけど。
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