第14話 猫耳が好きでした

 シロを撫でて気分よく二人でふざけ合ってから、次はどんな動画をとろうかと話し合ったりしていた。時間はそろそろ夕方だ。

 いつもならそろそろ晩御飯どうしようかな。メニューによっては下準備をし始める時間だ。


 だけど今日はそうじゃない。本当に晩御飯もいらないのかな? 確かに私の方は一日かけてぐびぐび血を飲んでたからか、満足感があって食べたい欲もないけど。


「シロー、本当に晩御飯いいの?」

「まだ言っておるのか。何日も食事をとらんこともかつては珍しくなかったんじゃぞ? 娯楽のような物じゃ」


 えぇ。いやまあ、確かに血があれば食べなくても生きていけるのに食べるって言うのは、お菓子みたいな娯楽と言ってもいいのかもしれないけど。食事が娯楽と言われると、えぇ、としか言えない。


「ならいいけど」

「汝は汝でするべきことをするがよい」


 シロはそう意味ありそうで格好いいことを言いながら、すとっと私の膝から机に飛び乗り、午前中に置きっぱなしにしていたテレビのリモコンを押した。

 言ってくれるのはありがたいけど、編集作業は全部終わったんだよね。次の動画のネタについてさっき話したから、それをメモしておくくらいしかない。


 メモ帳を立ち上がてメモをしながら、シロのつけたテレビを見る。シロはぽちぽちチャンネルを変えて、ニュース番組を飛ばしてから再放送っぽいアニメでとめた。シロはドラマやアニメのストーリーがあるのが好きらしい。ニュースはあんまり興味がないらしい。そりゃそうか?


「あ、それ知ってる? 日本でのシロみたいな存在をテーマにしたアニメだよ」

「わらわみたいな? 超常存在ということか」

「ん? そうそう」


 超常存在がよくわからないけど、多分そう。シロって教養があるのかないのかわかりにくいな。地頭はいいんだろうけど、日本では猫で過ごしていたから、猫以上の常識がないところもあれば、そう言う言葉は知ってるのか、みたいなのもあるし。言葉遣いも色々混じってるし。そう言うところ、全体的にミステリアスで可愛いよね。


 私も子供の頃好きで見てた妖怪アニメが流れている。これも結構長いこと、再放送だけじゃなくて新しく続いてるんだよね。見てはないけど、たまにネットニュースで見かけてた気がする。


「えっ!?」

「んっ!? え? な、なんじゃ?」

「あ、ごめん、いやちょっと、猫娘が可愛すぎてびっくりして」


 妖怪アニメで主人公はぬらりひょんで幼馴染の猫娘と一緒に、妖怪のせいで人間界に起きるトラブルを一緒に解決していくお話だ。

 線が細くなって現代の作画になっていってるんだなーと何気なく見てたら、登場した猫娘にびっくりした。めっちゃ可愛いヒロインみたいになってるじゃん。

 いや、私が見てた時も別に可愛かったけど、もうちょい子供向けというか、素朴な可愛さだったし、もっとこう、きつい目つきだった記憶がある。でもなんというか、普通に釣り目の美少女じゃん。

 年齢も小学生くらいから中学生くらい? になってる。猫耳と尻尾が健在で名前も一緒だからわかるけど、色味も変わってるから、あれ? 別キャラ? と一瞬思ったくらいだ。主人公はあんまり変わってないからまるでおねショタみたいになっている。


 思わず声に出して驚いた私に、シロもびくっとして起き上がって振り向いてから、私の答えに呆れたように顔を戻した。


「なんじゃ……汝、こういう娘が好きなのか」

「え? まあ、好きって言うか、まあ、好きか、うん」


 前のも好きだったけど、言われてみるとまあこっちの方が洗練されているし、いかにもヒロインヒロインとしていて可愛い。と言うか全く別ものの方向性な気もするけど、どっちが好きかと言われたらこっちかな?


「ふーん、そうか」


 シロは自分で聞いておいてそっけなく相槌をうってから立ち上がり、ソファを降りて人間になった。


「ん?」

「厠じゃ」

「ほーい」


 トイレって言って通じるし、理解してるのにやっぱ使いなれてる言葉なのか、そっちがすぐでてくるらしい。便所って言われるよりはいいけど。

 アニメとか、最近知った横文字はむしろ最初めちゃくちゃ発音よかったけど、途中からちゃんと? 日本人的発音になって順能力高いなーって思うのに。単語はアップデートされないの謎だ。


「……」


 テレビはCMを挟んで進んでいく。途中から見だしたからちょっとわかってなかったけど、どうやら今回は小学生たちから依頼をうけて学校の七不思議を調べている中いなくなってしまった同級生を探していたらしい。

 猫娘の活躍によって見つかった同級生と敵に主人公ぬらりひょんが取り戻し、なんやかんやでハッピーエンドだ。こういう一話完結の話は気付いた時に見ても楽しめるからいいよね。


「ん?」


 エンディングが流れ出して、さて、と気持ちを切り替えたところで気が付いた。そう言えばシロ、長くない?

 吸血鬼に便秘とかある? 私はいつも快便だけど、生前からだしなぁ。


「あのー、シロさーん? だいじょーぶですかー?」


 きばってるとかなら声をかけるのは無粋だけど、今日ご飯も食べてないし、もしかして吸血鬼特有の周期的な病気とかあるかもだし、そーっと廊下から声をかける。


「……」

「あの、もしかして体調悪いとか?」

「……別にそうではない」

「えっ!?」


 トイレの前で声をかけていたのに違うところから声が返ってきてびっくりしてしまった。振り向いた先は隣の脱衣所のドアだ。

 そのまま見ていると、ゆっくりドアが開いた。


「……」

「ま、まあなんじゃ。別に、おかしな意味は全然ないんじゃが、まあ、汝がこういうのが好きというたから、その……まあ、それだけなんじゃけど」

「かっ、わいい!」


 現れたシロはさっきと同じ人間の姿だったけど、何故か頭から猫耳が生えていて、お尻から前に回ってきて自分で持っている尻尾まであった。もじもじしながら天井をちらちら見ながら私にお披露目してくれたそのまさかの猫娘姿に、私は意味もなく両手を宙に漂わせながらシロの前で膝をついた。


「えぇー! シロこんなこともできたの!? 可愛い! めっちゃ可愛いよ!」


 猫は好きだったけど、猫耳キャラが特別好きだったわけじゃない。動物耳を生やした人間は普通に可愛いキャラだと思ってたけど、普通の猫のが可愛いと思っていた。でも、実物で見ると可愛すぎるでしょ!

 掴んでるのにしっぽがくねくねしてるとことか、耳先がぴくぴくしてるところとか、まじで、猫じゃん! 可愛い。


「そ、そうか」

「あ、ごめんね。もちろん普段からシロはめちゃくちゃ可愛いんだけど、猫要素があるとなお私の好みにストライクってだけで、とにかくシロはいつでも可愛くて最高だよ!」

「なんのフォローをしておるんじゃ。別に、その、より喜ぶじゃろうと思ってしておるんじゃし、よいぞ」

「シロ可愛い! 好き! 愛してる!」


 謎のお許しもでたので存分に可愛がることにする。膝をついたまま、すすっと滑り寄り抱き着く。元々私より小さいシロは膝をつくとちょうどふさふさの耳が私の顔の位置になる。華奢な体を抱きしめて頬で耳を感じながら、そっと右手で後頭部をつつんでなでなでしてから頬と逆側の耳に触れる。

 人間サイズになったことで耳でかっ! ふわふわっで、それでいてしっかりした中身のある反応が気持ちいい!

 左手をずらすと、尻尾はお尻の上の方でズボンに穴があいてそこからでていた。猫になる時服を情報にしているとかよくわからないことを言っていたけど、改造もできるのか。すごすぎるな。

 スリットから自然にでてきている尻尾は猫より太くて握りがいがある。くねくね動いているのも楽しくて、ついつい毛を撫でる様にしてしまう。


「そ、そのくらいならいいが、あまり毛を逆立てたりするでないぞ。特に尻尾は、敏感なんじゃからな」

「あ。そうだよね。ごめんね。気を付ける。大きいからつい、猫にするより力がはいっちゃった。ソファに行こっか」

「うむ。構わん」


 いつまでもたちっぱなしでいるのもおかしい。シロをそのまま抱っこしてソファに向かう。体格差があるとはいえ、普通なら胸元まであるサイズの女子を抱っこなんて簡単にできないけど、吸血鬼の私には普通にお姫様抱っこもできる。

 腕の中で素直に収まっているシロは猫の時と同じ反応で、可愛さで胸がきゅんとしてしまう。


 膝にシロを乗せる形でソファに座ると、シロはそのままお尻をずらして丸まった。大きな猫ちゃんみたいで可愛い。頭を撫でて耳もふわふわ撫でると、尻尾はソファに落ちてぱたぱたしている。


「それにしても本当にびっくりしたよ。吸血鬼の変身能力って、何にでもなれるんだ?」

「うむ。そうなるもの、と思えばそうなるんじゃ」

「うーん、それって、もしかしてこうなるんだ! って思い込みの力で変身できるってこと?」

「ううむ? まあ、そう言えなくもないかの?」

「なるほど! じゃあ私も……」


 猫になれる。猫になれる。…………いや、無理だわ。23年生きてきた人間としての感覚が、私猫じゃないないわって言ってる。くそ! 私の頭固すぎ!

 もっと簡単なのから練習するしかないか。例えば……髪の色とか? 実際に染めれば変えられるし、それくらいなら。後で練習してみよう。


「あ、そうだ! シロ、折角だし今度からの動画はその猫耳バージョンでいこうよ!」

「ん? それをしても大丈夫なのか?」

「実際の人間がリアルタイムに二次元のキャラになれるんだし、そう言う技術ですって言えば大丈夫じゃない?」


 まあ多分。仮にガチとばれたとして、悪いことはないでしょ。身バレさえしてなければどうとでもなるし。


「そうしたら絶対人気でるよー。勿体ないから、今撮ってる分は投稿してから、週明けから猫耳お披露目かな?」


 それまでにいっぱいの人に見てもらえるよう告知もして、あ、せっかくだしライブにしてみてもいいかも! そろそろしたいなって思ってたけど、中々ネタがないなーと思ってたんだよね!


 それからシロはお風呂をあがるまで猫耳姿でいてくれたけど、やっぱり寝て起きたら猫になっていたので、普通の猫の姿が一番落ち着くみたいだ。

 私も最初はめちゃくちゃテンション上がったし今も可愛くて好きだけど、猫の姿が一番蠱惑的なのは間違いないので、改めて抱き着いておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る