◆無題

・受験日まであとわずか。

 試験日まで、あと残りわずか。

 俺は日々、その日に備えて、英単語やら数学の公式やらを頭の中に詰め込んでいた。

 なのに俺の頭ときたら、てんで空っぽ。

 無知もいいところだ。

 なにひとつとして覚えられてねえ。

 今度大学受からなかったら就職しろと、親から口酸っぱく言われているってのに。


「こいつは呑気でいいよなあ」

 うちで飼っている犬のゴンを見ながら、思いを馳せてみる。

 犬になったら、さぞや楽な一生を過ごせるんだろうな。

「こいつめ」

 すり寄るゴンの頭を撫でたら、目を細くして嬉しがった。


 ふと、勉強を再開しようと、何気なく机の前にある窓に目を向けると、寒空の下、猫が一匹庭をかけていった。

「猫もいいかもな……でも野良はやだな」

 猫が霜を舐めていた。そんな生活は送りたくない。


 部屋に視線を戻してゴンを見れば、ストーブの近くに寄ってあくびをしていた。

 暖かい部屋で寝転び、鳴けば何の苦労もなくエサが出てくるんだからな。

 まったく、いいご身分だこと。


 俺は廊下に出た。

 吐く息が僅かに白む。

「今年こそは実らせないとな……」

 浪人生の肩身は狭かった。俺は野良になんかなりたくない。




【パングラム】

 みのらせろふゆおれ無知むち

 ねこそとけまわり、しもめ。

 部屋へやえさ

 いぬ暖房機だんぼうきって、欠伸あくびする。


【解説】

 みのらせろふゆ。おれはむち。

 ねこ、そとかけまわり、しもをなめ。

 へやにえさ。

 いぬ、たんほうきよつて、あくひする。

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