僕はワトソンと呼ばれたい
ぎざ
隣町シャッター商店街殺人事件
第1話 はじめの5分
僕の学校には名探偵がいる。
カリスマ性があって、可愛くて、発言力があって、先生や警察にも一目置かれている。
彼女の名は人呼んでアイリーン。本名は別にある。彼女をこう呼ぶと喜ぶのを僕は知っている。
僕の名前は
探偵の助手として僕は毎日、アイリーンが解く事件、謎、依頼を探す。
彼女は頭脳明晰で、あらゆる謎を5分で解決する。
朝の自由時間の10分の間に、僕は彼女に事件の情報をかいつまんで5分で話す。彼女は残りの5分で見事解決してみせるのだ。
彼女は事件の謎を解くのが大好きだ。僕も彼女が事件の謎を解いた時のあの自信に満ちたドヤ顔が好きだった。
だから僕は探偵の助手として、彼女のために事件の謎や依頼を用意しないといけない。
情報収集は5分なんかじゃ終わらないのに、一方の彼女はと言うと、たった5分で謎を解いてしまうから、毎日事件の謎を用意するのが実はなかなか大変なのだった。
僕は毎日彼女のために寝る間も惜しんで情報収集している。探偵助手として、力になりたかったから。
今回は隣町の事件だったけれど、現場は駅から近いこともあって調べやすかった。
「先週の『遺体無き連続ダイイングメッセージ事件』は、
「私のことはアイリーンって呼びなさい」
おっと。失礼。
愛理は彼女の名前だ。
「君の推理通りだったよ、アイリーン。彼は美術部の活動だけじゃ創作意欲が満たされず、自己顕示欲から、自分の出席番号を暗号にして地面に描いたらしい。それがダイイングメッセージに見えていただけだったんだ」
何事も無かったかのように彼女は話を続ける。
「ええ。学区内三つのダイイングメッセージを組み合わせると、学年と出席番号が浮かび上がった。あとは該当する生徒を見つけるだけね」
出席番号に該当する生徒を見つけるだけ、といっても、その調査が一番時間がかかってしまった。たまたまうちの中学だったから良かったものの、徹夜続きで非常に眠い。
今日の話す事件は、隣町で起きたシャッター商店街殺人事件。
シャッター商店街とは、お客さんが来ずに閉店を余儀なくされ、シャッターが降りた状態のままのお店が連なる商店街のこと。
殺されたのは八百屋『
凶器の包丁は五十嵐さんの家のもので、事件は衝動的なものであるとされた。現場にあったものを使用されていたから、計画的なものでは無い、と。
事件当日は雨だった。現場に残された雨に濡れたビニール傘は犯人の残した唯一の手がかりだと思われる。
容疑者は3名。
1人目は同じ商店街の靴屋『くついの靴屋』の
久津井さんの家には雨に濡れた傘も靴もなかった。
久津井「あの日は一日中家にいたよ」
2人目は同じ商店街の雑貨屋『ダイソ
犯人の残した手がかりとされる傘と似たような傘がこの雑貨店でも売っていたが、この店も八百屋と靴屋同様、数年前に閉店してシャッターを閉めていた。
大磯さん自身の傘と、靴は雨に濡れていなかった。
大磯「あの日は午前中は家にいて、午後は駅の本屋で好きなマンガを買いまくってたよ。商店街に本屋が無くて、駅まで行かなきゃだから大変だよ」
3人目は商店街から一駅離れた場所に住んでいる不動産屋『不動さん』の
彼の家には雨に濡れた傘と、雨に濡れた靴があった。
「その日は一日外に出てお客さんと商談してました。一日中雨が降っていて、傘は家に帰るまで手放せませんでした。あの商店街には行っていませんよ」
犯人は嘘をついている。
アイリーンは僕からの情報を聞いて推理を構築する。
「ふむふむ。容疑者は3人。残された手がかりは雨に濡れた傘ね」
僕は
「一応、そのシャッター商店街も行ってみたよ。駅から徒歩1分。直結でアーケードがあるから、駅からのアクセスも良くて、正直シャッター商店街にしてしまうのはもったいないというか」
「アーケード?」
「あぁ、商店街って、お店が連なってるだけのところもあるけれど、向かい合うお店の前にある通路に、アーチ型の屋根がついているものを『アーケード商店街』って言うんだよ。現場の商店街はその、アーケード付きの商店街だった。駅から商店街まではアーケードがあるから、傘を持っていかなくても濡れなくて済むから楽だよ」
「ふうん、なるほど。大体わかったわ」
事件の情報は話し終わった。
これからはアイリーンの推理の時間。
「犯人はあの人に間違いないわ」
すでに彼女の中には完璧に推理が構築されている。
まだ話をし始めて5分しか経っていないというのに。
僕は教室の壁掛け時計を見た。
朝の自由時間はあと5分。
彼女の推理を聞くのに充分な時間だった。
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