第17話 双葉は悔しがる

 武術の知識なんてないので説明飛ばしますね。

 はい、無知ですいません。

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 説明を終えた降魔は一息ついて幻影魔術の準備を始める。

 先程と同様に地面にスラスラと魔術式を描いていく。

 そんな降魔の姿を、くたくたになって座っていた双葉は、疲れなど忘れたかのようにじっくりと観察する。


(本当に魔術式を手描きで描いているのね……。どうやったらあんなに複雑な物を記憶できるのよ……。まぁ3つくらいなら私も覚えているけれど……流石に彼は覚えすぎだわ……)


 結構人の事を言えない優秀な双葉であった。

 

 それから5分ほどで魔術式を描き終わった降魔は、双葉に問いかける。


「本当にコイツとやるのか……? 俺が言うのも何だがめちゃくちゃ強いぞ? いくら幻影と言っても今回のはダメージ入るからな」

「勿論分かっているわ。覚悟の上よ」

「ならもう俺が言うことはない」


 降魔は魔術式にマナを流し込み言葉を紡ぐ。


「《幻と言う名の戦士の影で惑わせ狂わせろ———》【幻影】」


 魔術式のマナが活性化し輝きを発する。

 そして数秒ほどで光が収まり先程降魔が戦っていた歴戦の戦士の幻影が現れた。

 その幻影から放たれる威圧感に双葉は顔を顰め、冷や汗をかき出す。


「貴方どうやってこいつの威圧に耐えたのよ……」

「始めは龍川よりも酷かったぞ。立てなかったからな。まぁ要は慣れだ。慣れれば普通に立ち向かえる。慣れないと絶対に勝てないぞ」

「そんなの分かっているわよ。ふぅ……よし! 《我が身を強化せよ———》【身体強化】」


 双葉の体に魔術式が刻まれ、体が淡く光る。

 双葉はちゃんと発動したのを確認して、仁王立ちしている幻影に突っ込む。

 そして一瞬で距離を詰めた双葉は蹴りを放つ。

 しかし幻影は動くことなく双葉の攻撃を食らった。

 だが何故か手応えがない。


「どうし――……う、うそ……」

『…………』


 そこには双葉の蹴りを一歩も動かずに受け止めていた幻影がいた。

 双葉は自身の蹴りが全く効いていないことに驚く。

 しかし直ぐに幻影から離れる。


「どうだ、俺の幻影は? 強いだろ?」


 若干誇らしくしながら言う降魔に双葉は、


「強いだろじゃないわよ! どう言うことよあれ! 私結構本気で蹴ったのに全然聞かないんですけど!?」

「俺もダメージを与えるのに1年は掛かったなぁ……あれはキツかった……」


 そう言って過去を懐かしむようにする降魔。

 そしてそれを見て顔を青ざめさせる双葉だったが、ビビってはだめだと自分の言い聞かせて果敢に攻める。


「はぁぁああ!!」


 再び蹴りを繰り出す双葉だったが、今度は幻影の足を狙ったローキックだった。

 そのため僅かに体制を崩す幻影。

 

(よし、全力で蹴ったかいがあったわ! このまま攻める!)


 双葉は強化した体を最大限使ってパンチに蹴りを多く混じえて攻撃する。

 そしてその攻撃をいなしたり受け止めたりしながら幻影は防戦。

 戦闘は時間が立つに連れて激しくなっていく。

 衝撃音と風を切る音が離れている降魔にも聞こえてきた。


「やっぱり龍川は天才なんだなぁ……もうあんなに善戦してるし。俺よりも年齢も筋肉量も下のはずなんだけどな」

 

 降魔は双葉を見ながらそう溢す。

 その瞳には切望がありありと浮かんでいた。


 降魔が今の双葉の領域に行くまで2年以上掛かった。

 勿論双葉が天才だからというだけではなく、小さな頃から努力もしていたのだろう。

 しかし逆を言えば小さな頃から努力できる環境にあったということだ。

 それすらも羨ましいと降魔は感じていた。


 今降魔の目線の先では双葉が未だ攻め続けている所だった。

 双葉はローキックを主体とした相手を崩す戦いをしており、幻影が戦いにくそうにしている。

 しかしとうとう双葉の問題が浮き彫りになってきた。


「はぁ……はぁはぁ……くッ……!?」


 今まで休みなく攻めていた双葉の動きが目に見えて悪くなってきていた。

 体力が持たなかったのだ。

 そのせいで今回初めて被弾を受ける。

 受けると言っても掠った程度だったが、体が小さく体重の軽い双葉はそれだけで吹き飛ばされた。

 双葉は空中で体を捻り、無理やり体制を立て直し着地するが、双葉は既に息が絶え絶えとしており、今にも酸欠でぶっ倒れそうになっている。


「龍川!! 今回はもうお仕舞いだ!!」


 降魔は幻影魔術を解除し、双葉に駆け寄る。

 近寄ってみると双葉は辛うじて意識を保っていた。


「大丈夫か!?」

「……五月蝿いわよ……大丈夫だから……」

 

 降魔が双葉に話しかけると弱々しい返事が帰ってきた。


「それで……どうだった……私……?」

「ああ、初めてにしては、と言うかめちゃくちゃ良かったぞ。幾ら強化したところで力はどうしても同格以上には敵わないから、相手の戦いづらくしていたのは良かったと思うぞ」

「それなら……良かったわ。…………すぅ……ふぅ……はぁ……よし、大分良くなってきたわ」


 そう言った双葉は起き上がり、悔しげに顔を歪めた。


「全然だめだったわ……次こそは勝ちたいわね……」

「2回で勝てたら俺の苦労は何だったんだってなるな」

「それは才能の差ね。諦めなさい」

「……結構言うのなお前。……でもまぁ俺のほうが強いから負け犬の遠吠えとして捉えておこう」

「はぁ? 私は負け犬じゃないわよ! だいたい負け犬と言うのはね―――」

「分かった分かった。俺が間違ってた。もうそう言うのは止めて俺に召喚魔術を教えてくれ」

「っ―――はぁ……分かったわ。でも後少しだけ待っていて欲しいのだけど」


 双葉は再び地面に寝転がり、降魔に言うと、降魔も地面に寝転がって頷いた。

 静かになった森では動物たちの声や草木の風に靡く音が響き渡った。



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