第9話 追跡魔術
「ねぇ八条降魔、私が召喚魔術を発動するのを手伝おうと思うのだけどどうかしら?」
一見その言葉はとても親切で優しい言葉に見えるだろう。
事実普通ならとてもいい言葉だ。
だが今回は違う。
降魔はその言葉を聞いた途端一歩後ずさる。
そして冷や汗をダラダラかいていた。
(まずいまずいまずい! まさかこんな場所で言われるとは思っていなかった……! こいつ自分の影響力を知らないな……ッッ! うわっ……みんなの視線が痛い……)
更に一歩後ずさる。
今降魔は周りの人間から嫉妬と憎悪の視線を一身に受けていた。
双葉はこの学園で1番期待を寄せられている生徒である。
そんな彼女に取り入りたい人は腐るほどいる。
そんな奴たちから見たら今の降魔はどうだろうか。
羨ましくてしょうがないだろう。
だからそれを分かっている降魔は、自分に怒りの矛が向かない様に近づかない様にしていたのだ。
しかしその目論見は呆気なく崩れ去っていった。
双葉は特に何も考えていなかったのだろう。
何故なら自分は既に慣れているから。
しかし降魔からしたらもっと考えて行動して欲しいと声を大にして言いたいところだろう。
「それでどうなのかしら? 返事が欲しいのだけど……」
降魔は必死に頭を働かせる。
(今断ったら間違いなく更に面倒なことになる……。しかし受け入れても面倒なことになる……この選択肢は一つしかない!)
「す、すまん! また返事は今度で!」
降魔はぐるっと後ろに向き直り、一目散に逃げ出す。
「あっ!? 何で逃げ出すの!?」
双葉は降魔に手を伸ばすがそれより先に降魔は教室を出て何処かに行ってしまった。
その一連を見ていた炎児を含めた傍観者たちは何が何だか分からないと言った顔をしている。
そして双葉は頬を膨らまして可愛く文句を言っていた。
「むぅ……何で逃げるのよ……折角勇気を出して誘ったのに……。絶対に見つけてやるわ……!」
双葉も理解の追いついていない生徒たちを置いて降魔を追いかけていった。
そして残った生徒たちはと言うと……
「……何なんだあいつら……」
炎児が最初に口を開く。
そして次に加恋が口を開いた。
「えっ……告白現場……?」
加恋の呟きに全ての生徒が思わず同意してしまった。
~~~
教室で話題になった2人の1人である双葉は、降魔を追いかけていた。
「もう……どこに行ったのよ……逃げ足はめちゃくちゃ速いわね……」
双葉は【身体強化】を発動してまで追いかけたのだが、途中から降魔の姿を見失っていた。
当初は自分なら追いつけると踏んでいた双葉だったが、人目が無くなった途端に降魔の移動速度が急激に上がり、双葉ですらついていけない様な速度になったためあっさりと逃してしまったのだ。
「うぅぅ……こうなったらあれを使うしかないわね……」
双葉は学校の支給品の魔導バングルを外し、鞄から黒いブレスレット状の魔導バングルを取り出す。
これは双葉が任務や自主練の時に使う自分専用の魔導バングルで、支給品にはない機能や魔術が沢山付属されている。
「装備者龍川双葉。龍姫の使用を開始する」
《装備者の生態を確認。龍姫を起動します》
双葉の《龍姫》と呼ばれた魔導バングルが淡く光る。
「それじゃあ行くわ。《我が目標を追跡せよ———》【チェイス】」
双葉が【追跡魔術】を発動させる。
すると双葉の目の前に魔術式が浮かび上がり、そこに辺り20km圏内の地図が一瞬にして出来上がる。
その後に青い点と赤い点が出現した。
この赤い点が降魔で青い点が双葉である。
【追跡魔術・チェイス】とは、対象に自身が一度取り込んだマナを予め施すことによって、そのマナを持つ者を追跡できると言う珍しい魔術だ。
昔は支給品にもスタンダードとして付けられていたのだが、相手の動向が知りたいと言うカップルの悪用が広がり、苦情が絶えなかったため、30年前に一部を除いて消し去られた俗に言う【
それにこの魔術は同時に他の魔術を使うことができないと言うデメリットもあるし、単体でしか使用できないくせにめちゃくちゃ発動が難しくマナも大量に使うため、非常に使いづらい魔術なのだ。
普通の召喚魔術士ならば専用魔導バングルを作ったとしても絶対に付けない魔術である。
そんな魔術を何故双葉が持っているかと言うと、所謂名家の特権だ。
これほど分かりやすい理由はないだろう。
「ふふっ……見つけたわ……。待ってなさい、絶対に返事を貰うんだから!」
そう言って双葉は地図を見ながら紅魔の元へと歩き出した。
———双葉が降魔の秘密を知るまで後30分。
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双葉はヤンデレ……?
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