山猫少女は願わない
庭守透子
序章 少女は夢を見る
少女は夢を見る
幼い記憶は幼いままで成長することはないし、完全な過去になる。過去の人物は現在の人物とは異なる。それでもと思いながら、
「真彩ぁ」
「真彩が死んじゃうぅ」
あまりにも必死に言うものだから、本当に死んでしまうかもしれないと真彩は思った。けれど、これ以上茜が不安に駆られないようにと、流れる鼻血を腕で拭きながら、真彩は痛みを笑い飛ばして見せた。
「これくらいじゃ死なないよ」
眉間にしわを寄せた茜に無言でじっと見つめられる。対応に戸惑っていると、茜が手を握ってきた。
「わたしも、わたしもっ、真彩を守れるように、がんばるからっ」
真彩は嬉しくなった。真彩が茜を、茜が真彩を守り続けるなら、この先ずっと一緒にいられると思ったからだ。一心同体ってやつだ、と真彩は憧れの四字熟語を思い描いた。
「うん。わたしのこと、守ってね」
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