『青銅の騎士』(プーシキン)の場合

大統領が、いつものように、

執務室のデスクに向かっていた、

朝方のことだ。


執務室の大きなドアがぐぐぐと開き、

(ノックもなしに入ってきたのは

どこのどいつだ?)と、

大統領が顔を上げてみれば!


そこにいるのは、青銅の像。


馬にまたがった、

凛とした騎士の像。


というか・・・、

「え?これは?」

冷静沈着で知られた大統領も

さすがにこれには飛び上がる。


これはペテルブルクにあるはずの、

ピョートル大帝の像ではありませんか!


大帝「お前を叱咤激励に来たぞ!」


大統領「はあ?」


大帝「お前が今のロシアのツァーリか?」


大統領「いいえ、私は大統領です!」


大帝「しかしCNNでは、

お前のことを『現代のツァーリ』と

呼んでいたぞ?

まあよい、お前に話がある」


ピョートル大帝の像がまたがる、

これまた青銅像の馬が、

ツカツカツカと

大統領の前に進み出た。


大帝「西欧の技術導入は順調だろうな?」


大統領「は?」


大帝「わしがどれだけ苦労して、

ロシアの技術の後進性を

改革したか、わかっておろうな?」


大統領「あ、はい!

ピョートル大帝、あなた様の

歴史的偉業はもう、、、!」


大帝「わしが死んでから300年は経つ。

ロシアの技術は西欧に

追いついたか?」


大統領「はい!それはもう!」


大帝「まさか。ロシアの軍が

西側の技術力の前に屈しているとか、

そんなことはあるまいな」


大統領「そそそ、

そんなことはございません!」


大帝「スウェーデンと

フィンランド対策は順調か?

わしが、わしの名前をつけた

ペテルブルクという街を作ったのは

まさに北欧政策のためだぞ」


大統領「スウェーデンとフィンランド?

あ、いや、うう、、、

ちょうどいま、鋭意、

彼らとも交渉中でございます」


大帝「それはけっこう。

よいか、ロシアを大きくするには、

一にも二にも、産業復興だ!

どんどん技術力を高め、

西欧に負けない経済国家に

せねばならぬ!」


大統領「はい、粗漏はありません!

ので、どうか、

ペテルブルクの広場にお戻りください」


大帝「そうしようかな。

ところでお前、

せっかく来たのだ、

わしに何か、施政者として、

訊いておきたいことなどないか?」


大統領「はあ・・・」


大統領は、汗を拭き拭き。


大統領「そういうことであれば。

ピョートル大帝、あなたさまは、

西欧の技術をロシアに導入するために

全生涯を捧げたとききますが。

技術導入のコツはなんでしょう?」


大帝「おお。いい質問だな。

わしのやり方を教えてやろう。

ちょっと、近う寄れ」


大統領「はあ」


おそるおそる、大統領が銅像に近づくと、


いきなりピョートル大帝像は、

手を伸ばし、

大統領の歯を一本つまみ、

腕力で、メリメリと、

抜き取ってしまった!(*)


大統領「ぐわわわわ!」


口から鮮血を噴き出しながら、

激痛にのたうち回る大統領。


大帝「これがわしのやり方だ。

なにごとも体験。

技術導入は、まず、

自分の手で体験してみることじゃよ」




※注:ピョートル大帝は

歯科医術にハマったとき、

側近たちの別に悪くもなっていない歯を

実験のために抜くことを

趣味にしておりました。

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