第193話 帰り支度
部屋に戻ると、すぐにお腹をすかせていたルークに授乳をして寝かせると荷造りを始めた。
セシルに実家に戻るように言われた以上、いつまでもこの離れにいることは出来ない。
本当は、自分の気持ちとしてはまだこの離れにいたかった。
このラベンダーの部屋はフィリップが私の為に用意してくれた特別の部屋で、私にとってはとても落ち着く空間だった。
それに、アンバー家では私に与えられた役割分担の仕事があった。
ルークの子育ての合間に出来る範囲内での仕事を与えられ、やり甲斐があった。
「でも仕方ないわね。お母様も私がブライトン家に戻ることを望んでいるのだから」
いや、正確に言えば母は再婚を望んでいる。
その相手はセシルでも構わないと言っているくらいだった。
「家に戻れば、再婚の話ばかりされるかもしれないわね……」
私は自分が実家に戻ることを窮屈に感じていることに気付いた。
けれど、セシルからは自分の為にも実家に戻ってくれと頼まれている。
「そうよね……セシルの為にも…戻らないと」
ため息をつくと、私は再び荷造りを始めた――。
****
午後6時――
コンコン
部屋の扉がノックされ、チャールズさんの声が聞こえてきた。
『エルザ様、宜しいでしょうか?』
「はい、どうぞ」
扉に向かって声を掛けると、チャールズさんが「失礼します」と言いながら部屋に入ってきた。
「エルザ様、夕食は18時半になります。セシル様が最後に一緒に食事を取りたいと希望されているので時間になりましたらダイニングルームにいらして頂けますか?」
「セシルが…?ええ、分かりました。ということは、セシルはまだ離れにいるのですね?」
私はセシルが義父母と話している間に離れに戻ってしまったので、セシルがその後離れに戻ったかどうか知らなかった。
「ええ、セシル様はまだ離れにいらっしゃいます。明日、エルザ様がブライトン家にお帰りになられてから本館に戻るとお話しておりました」
「そうですか、分かりました」
返事をすると、チャールズさんが何処か思い詰めた表情でためらいがちに声を掛けてきた。
「あの……エルザ様…。少しお伺いしたいことがあるのですが……セシル様のことをどう思われていますか?」
「え……?」
突然の質問で答えに詰まった。
「セシル様がエルザ様に好意を抱いていることは、我々全員知っております。エルザ様のお気持ちは…どうなのでしょうか?」
「そ、それは……」
私はセシルのことをどう思っているのだろう?
するとチャールズさんがポケットから封筒を取り出し、差し出してきた。
「この手紙は……?」
「フィリップ様からです。お亡くなりになる前に、託されました」
「!」
チャールズさんの言葉に私は息を飲んだ――。
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