第140話 断れきれなかった願い
「はぁ……」
店を出ると、ため息を付いた。
すると父が申し訳無さそうに私に頭を下げてきた。
「エルザ……黙っていて本当にすまなかった。どうしても断りきれなかったのだよ。あの方はアンバー家と同じ男爵家の御令嬢なのだよ。おまけに大事な取引先の会社の娘さんなのだ……会わせて貰えないなら、さり気なく取引の打ち切りを匂わすことを彼女の父親から言われて…どうしても言うことを聞かざるを得なかったのだ。本当に申し訳無い」
「お父様……」
ただでさえ、ブライトン家は姉がフィリップとの結婚を前に逃げたということで世間の評判が良くない。
そのせいで取引先が何件か手を引いてしまったと言う話も母から聞かされている。
父としてもこれ以上取引先を失うわけにもいかなかったのだろう。
「いいのよ、お父様。私のことは気にしないで?それよりも……セシルとコレット様の方が心配だわ……」
お店の方を一度振り向き、再び私はため息をついた。
一体何故、コレット嬢はあのような真似をしたのだろう?
あんな不意打ちのような……ましてやセシルの前であのような真似をすれば自分の立場が悪くなるとは思わなかったのだろうか?
「セシル……だいぶ怒っていたみたいだったわ……」
ポツリと呟くように言うと、母も同調した。
「ええ、そうね…大丈夫かしら……」
「仕方ない。コレット令嬢が自分で先程の状況を望んだのだから……もうこちらが関与することではないよ。後は2人で話し合いをするだろう。それよりエルザには嫌な思いをさせてしまって申し訳ないと思っているよ。気分を改めて、ルークの買い物に行こう。そして帰りに何かエルザの好きなケーキでも買って帰ろう?」
「ええ。お父様」
確かに私が考えても始まらないかもしれない。
「それじゃ行きましょうか?」
母が声を掛けてきた。
「そうだな。行こう」
そして私達は馬車に乗り込み、ベビー用品を扱う店へと向った――。
****
それから私達家族はルークの為のベビー服やおもちゃを沢山買った。
「エルザ、他に行ってみたい場所はあるか?」
買い物帰りの馬車の中で父が不意に尋ねてきた。
「ええ、それじゃ……私、フィリップのお墓参りに行ってみたいの」
私はフィリップが亡くなってから体調が優れない日々が続いていたので、未だに彼のお墓参りに行っていなかったのだ。
「そうね。そう言えば……エルザはまだフィリップのお墓に行ったことが無かったわね」
母が声を掛けてきた。
「ええ、そうなの。連れて行ってもらえる?」
「そうだな。行ってみようか?」
「ありがとう、お父様」
父は御者に教会へ行くように命じ、馬車はフィリップが眠るお墓へと向った。
こうして、私はフィリップが亡くなって2ヶ月目に初めて彼のお墓へ行くことになった。
ガラガラと走る馬車の中で眠っているルークを胸に抱きながら、私は亡きフィリップの思い出に少しだけ浸るのだった――。
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