第126話 セシルとの食事

 セシルが部屋に戻り、ほどなくして本館のフットマンがワゴンに乗せて料理を運んできた。


テーブルの上にカチャカチャと料理を並べていく様子を私はベッドに横たわったまま、ぼんやりとその様子を眺めていた。


一方、セシルは目が覚めているルークを楽しげにあやしている。


「では失礼致します」


料理を並べ終えて部屋からフットマンが出ていくと、セシルが声を掛けてきた。


「エルザ、食事にしよう」


「ええ…」




 セシルに手を貸してもらい、車椅子に移動するとテーブル迄そのまま押して貰った。


「さ、食べよう」


「分かったわ…」


けれど、私は全く食欲など無かった。

とりあえず、口に入れられそうなスープから先に飲んでいるとセシルも何故かスープを口にしている。


ひょっとしてセシルも…?


「ねぇ、セシル」


「何?」


セシルは顔を上げて私を見た。


「貴方も…本当は食欲が無いんじゃないの?」


「あ…やっぱりバレてしまったか?」


苦笑しながら私を見るセシル。

そう言えば…自分のことだけで精一杯だったので気付かなかったけれども、セシルも随分痩せてしまったように見える。


「セシルも…とても大変だったのよね?ごめんなさい…私、自分に全く余裕が無かったから、少しも貴方のことを気に掛けてあげられなかったわ。貴方は私の為に色々気を回してくれていたのに」


「別に謝る必要なんか何も無いだろう?それに…誰が一番辛くて大変な立場かと尋ねられたら、エルザなんだから」


「…」


私は黙って聞きながら、スープを飲んだ。


「まぁ、食欲が全く無いっていうのは俺もそうなんだけどな。兄さんが危篤状態になってからは…殆ど食べ物も受け付けなくなっていた。エルザのことも気がかりだったし…」


セシルは言いながらパンにバターを塗っている。


「エルザと2人で食事をすれば、少しは食欲が湧いてくるかと思ったけどやっぱりまだまだだな。だから余計に会食の席には行きたくなかったんだ。あんな場にいたら好奇旺盛な参列者達に何を言われるか分かったものじゃない」


言い終わるとセシルはパンを食べた。


「エルザ…食欲が無くて食べたくない気持ちはよく分かる。でも無理してでも食べないと駄目だ。ルークがいるんだから。ルークの為にも食事を摂るんだ」


「ルーク…」


私はクーファンの上で目を開けているルークを見た。


「そうね…ルークの為にも食べないといけないわね」


セシルに言われて、私はようやく食事をする気になれた。


そうだ、これから私はルークを育てていかなければならない。フィリップが私の為に残してくれた、大切な…かけがえの無い愛子の為に。


そして私は目の前に置かれた食事に手を伸ばした…。




****



 何とか、セシルと2人でテーブルに並べられた料理を食べ終える頃にはルークはぐっすり眠っていた。


「エルザ、ローズさんは何て言ってた?」


食後のコーヒーを飲みながらセシルが尋ねてきた。


「ええ、私がフィリップの埋葬に立ち会えなかったことを残念がっていたら、ルークと2人で今度お墓参りに行けばいいと言ってたわ。そして、また手紙を互いに出し合うことを約束したの」


セシルの前では礼拝堂での話をする気にはなれなかった。


「そうか…それで他に何か話はしていなかったか?」


「他に話って…?」


「そう…例えば、今後のエルザの身の振り方…についてとかだよ…」


セシルは思い詰めた様子で私をじっと見つめてきた――。

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