第96話 聞かれた電話
「待って。お母様…そ、そんな縁を切るって…」
『何を言ってるの?エルザ。こんな言い方をしてはなんだけど…フィリップはもう後1年も生きていられないのでしょう?それなのに…夫の亡くなった後、あの屋敷でこの先ずっと暮らしていくつもりなの?貴女はまだ20歳なのよ?アンバー家にいる限り…再婚だって出来ないのよ?』
再婚…?!
その話に耳を疑った
「お母様、いくら何でも今の話は…」
そこまで言いかけて、視線を感じて顔を上げた。
するとは青ざめた顔でこちらを見ていたフィリップの姿があった。
「フィリップ…」
受話器を耳に押し当てたまま、フィリップの名を口にした。
フィリップは一瞬悲しげに笑うと、フイといなくなってしまった。
そ、そんな…一体いつから私の電話の話を聞いていたのだろう?
『え?フィリップ?!まさか…今の話…』
「ごめんなさい、お母様っ!電話…切るわっ!」
ガチャッ!
受話器を置くと、急いでフィリップの後を追った。
「フィリップッ!」
部屋を出ると、書斎へ向って歩いていくフィリップの後ろ姿を見た。
「待ってっ!フィリップッ!」
追いかけるとフィリップはすぐに立ち止まって振り向いた。
「フィリップッ!話を聞いてっ!」
急ぎ足でフィリップの元へ向かおうとしたとき…。
「エルザッ!駄目だよ走ったら!」
フィリップが慌てて声を掛けてきた。
「あ…」
そうだった。私にはフィリップとの赤ちゃんがお腹の中に…。
思わず足を止めると、彼の方からこちらに向って歩いてきた。
「エルザ…もう君の身体は君1人のものでは無いのだから、あまり無理はしないで欲しいんだ」
「ええ、そうね…ごめんなさい…」
コクリと頷くと、フィリップはフッと笑った。
「エルザ。部屋まで送るよ」
「え、ええ…」
私達は手を繋いで私の自室へ向った―。
****
パタン…。
私の部屋へ入り、扉を閉じるとすぐにフィリップは話しかけてきた。
「エルザ…さっき実家に電話を掛けていたんだよね?」
「ええ。そうよ。電話に出たのはお母様だったわ」
「そうなんだね?実はさっきリビングに行ったのはエルザに用があって、探していたからなんだよ」
「ええ…だと思っていたわ」
「エルザに子供が出来たことをセシルに伝えたんだ。そうしたら…すごく喜んでくれていたよ」
「本当?嬉しいわ」
「それで…エルザ」
「何?」
「僕は明日、両親にエルザに子供が出来たことを伝えようと思うんだ。だから…一緒に明日、本館へ行かないかい?君が両親に会うのは苦手なのは分かっているけど…。大丈夫、僕が一緒だから」
フィリップが私の肩を抱き寄せた。
「私なら大丈夫よ。だって早くお義父様とお義母様に私とフィリップに赤ちゃんが出来たことを報告したいもの」
「本当かい?ありがとう。後は…僕の病気のことも明日報告するつもりだよ」
「!」
フィリップの言葉に身体が強張る。
「エルザ、さっき…実家に電話を掛けたとき、子供が出来たことと…僕の病気のことも伝えたんだろう?」
真剣な顔つきで私を見るフィリップ。
「ええ…」
「お母さんは何と言ってたの?」
「そ、それは…」
思わず言葉に詰まり、私はフイリップの顔を見上げた。
どうしよう…。
本当のことを告げたいけれど、そうすれば彼を傷つけてしまうことになる…。
だけど、私は…フィリップに隠し事をしたくない。
だって彼を愛しているから。
「フィリップ…。貴方を傷つけてしまうことになるかもしれないけれど…。私のはなしを聞いてくれる?」
「うん…聞くよ」
その言葉に私は意を決して母に言われたことを告げることにした―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます